[OF-4-1] 口述発表:がん 4痛みを伴うパンコースト腫瘍患者に対し,長期に作業療法を行った一事例
【はじめに】パンコースト腫瘍とは肺尖部胸壁に腫瘍が浸潤し, 腕神経叢等麻痺などの神経症状に加え,独特の疼痛を起こす.今回,パンコースト腫瘍患者に対し約7ヶ月間OT介入を行った.痛みの変動に合わせた介入と,継続的に関わる意義を検討したので経過と合わせ報告する.報告に際し,症例から同意を得ている.
【症例紹介】60歳代後半の男性.右肺尖部の肺腺癌(stageⅢA)・パンコースト腫瘍・右腕神経叢麻痺であった. 自宅は二階家で,妻と義父母と暮らし,仕事は休職中であった.現病歴は,X-4カ月に右上肢痛が出現,X-2カ月右上肢麻痺が出現した.X-15 日肺腺癌と診断,X日に入院,放射線療法,化学療法が開始された.痛みが強く放射線療法中も必要な姿勢を保てず麻薬を使用した.
【評価】認知機能は良好だが,右上肢全体の痛みや疾病に対する予後について不安を強く訴えた.NRS8-10の疼痛を認め,上肢全体に浮腫,右上腕1/2以遠のしびれ感,右上腕~手指に強い冷感を認めた. SW-Tでは,母指青-紫,示指紫-赤,中指~小指赤を示した.筋力は,MMT右肩4,肘4,回内外3,手背屈4,掌屈2,手指0であった.ADLは左上肢のみの使用で概ね自立していたが,疼痛が強く臥位での睡眠は困難だった.FIMは運動88点,認知35点,PS 2であった.COPMではFIMによるADLの自立度が高い割に遂行度満足度の評価は低かった. OTでは箸の使用や書字を希望するなど上肢機能改善を強く希望した.
【経過】症例の言動から,痛み,診断,急激な神経症状の進行に混乱していると推測した.まずは,症例が希望する機能改善を共有目標として,ROM訓練と筋力強化練習を実施した. OT中は痛みについて傾聴し,現在できていることを確認しながら実施した.痛みの波はあったが,麻薬使用にて夜間も臥位での睡眠が可能,疼痛はNRS5となり,X+50日に退院した. MALはAOL 0.307 QOM 0.076であった.週2回の外来OTを継続したが,X+84日,疼痛がNRS10まで増悪し再入院した.麻薬増量,右腕神経叢パルス等実施により疼痛はNRS 3まで軽減した.X+89日退院,外来OTを再開し,この時期から上肢機能向上と痛み予防のバランスを考えて介入内容を調整した.機能訓練は継続し,痛み予防のポジショニングの指導,リラクゼーション及び誤用・過用の具体例を示した. X+166日に疼痛がNRS4と増悪したが,本人の自覚症状にあわせ振動療法,自主練習を導入し,その後疼痛軽減認めた.この経験を機に,症例自らストレッチや,生活での右上肢の使い方の工夫,習慣的に行っている運動の調整などに主体的に取り組んだ.
【結果】X+206日,右上肢の浮腫は消失し, 疼痛はNRS3と2回目退院後から増悪なかった.上腕1/2以遠のしびれ感は残存,冷感部位は手関節以遠に縮小.MMTは右肩4,肘5,回内外5,手背屈5,掌屈4,手指2+と改善した. SW-Tでは,母指緑,示指青‐紫,中指~小指紫‐赤であった.MALはAOL 1.928 QOM1.928になった.FIMは運動89点,認知35点,PS 1であった.不安は持続しているが,自主練習や生活に前向きな言動が見られた.以降もOT継続し,X+227日に麻薬終了となった.
【考察】
パンコースト腫瘍の痛みは独特であり,活力の低下や抑うつ,不安,食欲不振など悪循環を呈する陰性要因となりADL,QOLの低下へと負のスパイラルを形成する.癌疼痛マネジメントを患者に教育することはエビデンス1Aレベルとして推奨されている.今回は医療従事者への痛みの伝え方,非薬物療法と生活の工夫,セルフコントールを教育した.加えて客観的変化を共有,本人の取り組みを肯定的に支持するなど,自己効力感を向上できるよう関わった.痛みについては,長期的な継続した介入も必要である.今回は一例に過ぎないが,今後事例を増やし,さらなる追求が必要とされる.
【症例紹介】60歳代後半の男性.右肺尖部の肺腺癌(stageⅢA)・パンコースト腫瘍・右腕神経叢麻痺であった. 自宅は二階家で,妻と義父母と暮らし,仕事は休職中であった.現病歴は,X-4カ月に右上肢痛が出現,X-2カ月右上肢麻痺が出現した.X-15 日肺腺癌と診断,X日に入院,放射線療法,化学療法が開始された.痛みが強く放射線療法中も必要な姿勢を保てず麻薬を使用した.
【評価】認知機能は良好だが,右上肢全体の痛みや疾病に対する予後について不安を強く訴えた.NRS8-10の疼痛を認め,上肢全体に浮腫,右上腕1/2以遠のしびれ感,右上腕~手指に強い冷感を認めた. SW-Tでは,母指青-紫,示指紫-赤,中指~小指赤を示した.筋力は,MMT右肩4,肘4,回内外3,手背屈4,掌屈2,手指0であった.ADLは左上肢のみの使用で概ね自立していたが,疼痛が強く臥位での睡眠は困難だった.FIMは運動88点,認知35点,PS 2であった.COPMではFIMによるADLの自立度が高い割に遂行度満足度の評価は低かった. OTでは箸の使用や書字を希望するなど上肢機能改善を強く希望した.
【経過】症例の言動から,痛み,診断,急激な神経症状の進行に混乱していると推測した.まずは,症例が希望する機能改善を共有目標として,ROM訓練と筋力強化練習を実施した. OT中は痛みについて傾聴し,現在できていることを確認しながら実施した.痛みの波はあったが,麻薬使用にて夜間も臥位での睡眠が可能,疼痛はNRS5となり,X+50日に退院した. MALはAOL 0.307 QOM 0.076であった.週2回の外来OTを継続したが,X+84日,疼痛がNRS10まで増悪し再入院した.麻薬増量,右腕神経叢パルス等実施により疼痛はNRS 3まで軽減した.X+89日退院,外来OTを再開し,この時期から上肢機能向上と痛み予防のバランスを考えて介入内容を調整した.機能訓練は継続し,痛み予防のポジショニングの指導,リラクゼーション及び誤用・過用の具体例を示した. X+166日に疼痛がNRS4と増悪したが,本人の自覚症状にあわせ振動療法,自主練習を導入し,その後疼痛軽減認めた.この経験を機に,症例自らストレッチや,生活での右上肢の使い方の工夫,習慣的に行っている運動の調整などに主体的に取り組んだ.
【結果】X+206日,右上肢の浮腫は消失し, 疼痛はNRS3と2回目退院後から増悪なかった.上腕1/2以遠のしびれ感は残存,冷感部位は手関節以遠に縮小.MMTは右肩4,肘5,回内外5,手背屈5,掌屈4,手指2+と改善した. SW-Tでは,母指緑,示指青‐紫,中指~小指紫‐赤であった.MALはAOL 1.928 QOM1.928になった.FIMは運動89点,認知35点,PS 1であった.不安は持続しているが,自主練習や生活に前向きな言動が見られた.以降もOT継続し,X+227日に麻薬終了となった.
【考察】
パンコースト腫瘍の痛みは独特であり,活力の低下や抑うつ,不安,食欲不振など悪循環を呈する陰性要因となりADL,QOLの低下へと負のスパイラルを形成する.癌疼痛マネジメントを患者に教育することはエビデンス1Aレベルとして推奨されている.今回は医療従事者への痛みの伝え方,非薬物療法と生活の工夫,セルフコントールを教育した.加えて客観的変化を共有,本人の取り組みを肯定的に支持するなど,自己効力感を向上できるよう関わった.痛みについては,長期的な継続した介入も必要である.今回は一例に過ぎないが,今後事例を増やし,さらなる追求が必要とされる.