第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

精神障害

[OH-1] 一般演題:精神障害 1

2022年9月16日(金) 14:30 〜 15:30 第5会場 (RoomB)

座長:星野 藍子(名古屋大学大学院)

[OH-1-1] 口述発表:精神障害 1精神科デイケアを通所するSerious Mental Illness(SMI)患者の主観的感覚に影響する背景因子の探索

長嶺 匠1朝倉 起己1嘉数 栄司2中村 泰久3 (1共和病院デイケア,2沖縄リハビリテーション福祉学院作業療法学科,3日本福祉大学健康科学部リハビリテーション学科)

【はじめに】
 近年,精神障害を持つ人の見方,感じ方,考え方などの主観的感覚を理解することが重要と指摘されている(岩根,2021).主観的感覚は健康と幸福に大きく影響し,背景因子(環境因子・個人因子)との相互作用で生じる.先行研究からSerious Mental Illness(SMI)患者の主観的感覚には特に特に環境因子の家族との関係の影響が大きい考えられるが検討はされていない.そこで本研究は精神科デイケア(DC)に通所するSMI患者の主観的感覚である居場所感,満足度,QOLに影響を及ぼす背景因子を明らかにすることを目的にした.
【方法】
 研究デザインは横断的研究とした.研究期間は2021年11月~2022年2月,対象はDCに通所するSMIに該当する統合失調症,気分障害,発達障害とした.調査項目は基本的情報(年齢,性別,家族との同居,通所期間,入退院回数),機能の全体的評定尺度(GAF),居場所感尺度,日本語版Client Satisfaction Questionnaire 8項目版(CSQ-8J),WHOQOL26(QOL)とした.統計学的解析は家族同居群(同居群)とGH・独居群(独居群)の2群に分類し,t検定,Mann-Whitney U検定,χ2検定を用いて調査項目を群間比較した.調査項目間の相関をSpearmanの順位相関係数により確認した.同居群と独居群を従属変数とし,2群間比較と相関の結果を元に選択された調査項目を独立変数としロジスティック回帰分析(尤度比検定による変数増加法)を行い抽出した.統計ソフトはIBM SPSS ver24を用い,有意水準は5%未満とした.なお,本研究は共和病院倫理審査委員会の承認(番号:2021-012)を得て実施した.
【結果】
 得られた対象は同居群31名,独居群32名であった.2群間比較で有意な差を認めた項目は年齢(p<0.05),入退院回数(p<0.05),居場所感尺度の深いかかわり(p<0.05),居場所感尺度合計点,QOL身体領域(p<0.05),QOL環境(p<0.05),QOL全体の質問(p<0.05)であった.ロジスティック回帰分析の結果,年齢(オッズ比0.940,95%信頼区間0.90-0.98),入退院回数(オッズ比0.806,95%信頼区間0.65-1.0),居場所感尺度合計点(オッズ比1.165,95%信頼区間1.0-1.3)が抽出された.判別的中率は79.4%であった.
【考察】
 本研究の結果から,DCに通所するSMI患者の同居群は独居群と比べ年齢が低く,入退院回数が少なく,居場所感尺度合計点が高値であることが明らかになった.山口らは統合失調症患者の日常生活行動を支援する家族の存在が主観的感覚に影響を及ぼすと報告している(2011).本研究でも家族同居のSMI患者はDCの居場所感が高くなることが明らかにした.他方,独居群のSMI患者は年齢が高齢となり家族を失っていること,入退院を繰り返すことで家族の介護負担感が増大し同居困難に至っている可能性が考えられる.以上の結果から,DCでの地域生活支援はSMI患者の主観的体験に影響を及ぼす背景因子を踏まえた展開が必要であることが示唆された.