第56回日本作業療法学会

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一般演題

精神障害

[OH-1] 一般演題:精神障害 1

Fri. Sep 16, 2022 2:30 PM - 3:30 PM 第5会場 (RoomB)

座長:星野 藍子(名古屋大学大学院)

[OH-1-5] 口述発表:精神障害 1医療観察法病棟の対象者が入院から退院までに抱く思いの変化のプロセスと司法精神科作業療法の意義

南 庄一郎1 (1国立病院機構やまと精神医療センターリハビリテーション科)

1.はじめに
 医療観察法の目的は,心神喪失等の状態で殺人や放火などの重大な他害行為を行った者に適切な医療を提供し,社会復帰を促進することである.一方,医療観察法医療は強制医療であり,対象者は治療意欲の乏しい者が殆どである.この治療意欲の乏しさは対象者らしい地域生活の再開を目指す上で大きな阻害要因となる.本研究では対象者が医療観察法病棟への入院から退院まで,どのようにその思いが変化するかを明らかにし,その中で司法精神科作業療法はどのような意義を有しているか明らかにすることを目的とした.なお,本研究は当院の研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.
2.方法
 当院の医療観察法病棟に入院中で退院日が決定した対象者を研究対象とした.研究協力が得られた対象者には30分程度の半構成的面接を実施し,面接時の語りをICレコーダーに記録し逐語化した.そして,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析し,医療観察法病棟の対象者が入院から退院までに抱く思いの変化のプロセスと司法精神科作業療法の意義を結果図としてまとめた.
3.結果
 対象者は12名(男性10名,女性2名,平均年齢46.3歳,平均入院日数1217日)であった.また,対象者の面接は2021年6~11月の期間で実施し,面接時間は平均31分0秒であった.M-GTAによる分析の結果,生成された概念は26個,カテゴリーは12個であった.そして,筆者と外部の医療観察法病棟で勤務する作業療法士2名で概念とカテゴリーの妥当性,それらの結果図における関係性・配置を議論し,合意に達した時点で本研究の理論的飽和化を判断した.本研究から,対象者は医療観察法病棟への入院処遇が決定すると,強い抵抗感とともに病気が治療できる安心感という【入院処遇に対する複雑な思い】を抱いていた.その後,対象者はすぐに退院できないことを悟り,家族と電話で話すなどの【入院処遇というストレスへの自分なりの対処行動】を取っていた.そして【良し悪し様々な他対象者との関わり】や専門的多職種チーム(MDT)に対する信頼感の芽生えが【入院治療を受け入れるきっかけ】となり,治療プログラムへの参加を決めていた.その後,対象者は様々な治療プログラムに参加することで【入院治療が進んでいる実感】を得ていたが,早く退院がしたい【自由への渇望と焦り】にも駆られていた.しかし,MDTの綿密な関わりが【浮ついた気持ちを抑えるブレーキ】となって対象者の【自由への渇望と焦り】を抑制していた.その後,対象者は結婚や就労など【普通の生活に対するあこがれ】を抱き,退院に際しては自身の成長を実感して【新たな自分を生きる決意】を新たにしていた.一方,対象者は作業療法士の【ストレスを和らげる対等な関わり】によって自身の気持ちを整理し,パラレルOTなどのプログラムを通して自分らしく楽しく過ごせることを実感していた.また,同じく作業療法士の【自己効力感と生活技能を高める関わり】を通して,調理や掃除,買い物,対人交流技能などの生活技能訓練を通して退院後に活きる生活技能を獲得し,自分はできるという実感を得ていた.
4.考察
 対象者が入院から退院までに抱く思いの変化のプロセスを意識して,対象者とMDTが協働体制を取ることができれば対象者の主体的な治療参加に繋げられると考える.また,作業療法士の【ストレスを和らげる対等な関わり】と【自己効力感と生活技能を高める関わり】は,対象者が抱く思いの変化のプロセスを間接的に促進し,対象者が入院処遇を受け入れ,自分らしい地域生活の再開に向けて主体的な治療参加を促進する意義を有していると考える.