[OH-2-1] 口述発表:精神障害 2主観的健康状態を考慮した統合失調症者に対する作業療法介入
【はじめに】他者との交流が苦手で発語が乏しい重度統合失調症者に対する作業療法(OT)の実践に苦慮することがある.
【目的】OT目標の合意形成と患者の課題遂行時に,患者の主観的健康状態をツールとして用いて評価し,把握することが有用であった事例報告をする.
【方法】一事例報告.事例に対して本報告に関する説明を行い,書面にて同意を得た.
【結果】A氏,20歳代,女性,統合失調症.祖父母との同居生活を送っている.生活歴:10代に発症.短大中退.5年前に医療保護入院となり,退院後は自閉的な生活を送っていた.病的体験に伴う自殺の衝動性が高まり,当院へ医療保護入院となった.入院時の一日服薬量クロルプロマジン換算値(CP値)は838mgで精神症状評価尺度(BPRS)は51点,機能の全体的評定尺度(GAF)は25点であった.医療者からの質問には「わかりません」,「覚えていません」などの片言による返答のみであった.入院から18日目に衝動の発散目的にOT処方がなされた.
(経過,OT導入期:入院から31日目まで)A氏の意思表示が乏しく,OT目標設定に14日を要した.目標設定までは,OTの場の見学と作業体験を作業療法士(OTR)の添いのもと始めた.簡易健康自己評価尺度(BsHAS)は8点で主観的健康状態は低くなかったものの平行集団プログラムへは参加への促しを要し,集団の隅で短時間なら滞在できた. OT開始時の作業遂行能力客観評価尺度(OPS)は14点で作業遂行能力は重度課題を抱えていた.
(活動参加期:入院32日目から58日目まで)集団で他者から遠めの位置に着座し,20分程度の活動に取組めるようになった頃にOT計画に合意をえた.1)他者と一緒にすごすことができる,2)いくつかの選択肢から物事を決めることができる,3)就労継続支援への通所準備をすることを下位目標に,居宅生活を安定して送ることを目標とし,その目標の実行度は2点,満足度は3点(範囲:1~10点範囲,高得点ほど良好)であった.OTでは経過と共に塗り絵作業へ自発的に参加でき,1回あたりの活動時間量は徐々に増え,ストレッチや足湯へも体験を始めた.一方,発語がほとんどなく,目標に対する状況把握は難しかった.
(退院準備期:入院59日目から88日目まで)OTRが介入成果の進捗を週1回,BsHASを実施し,主観的健康状態を考慮した上で作業課題をA氏と共有した.A氏は課題遂行を積み上げ,いくつかの選択肢から作業を選択でき,ドリルや紙工作,折り紙などの作業にも取り組み,集団で過ごすことができるようになった.入院から88日目に退院となり,退院時CP値は1200mg,BPRSは40点,GAFは35点で,精神症状と社会機能は改善した.退院時の精神障害者社会生活評価尺度(LASMI)下位尺度対人関係(I)平均点は2.5点,労働/課題の遂行(W)平均点は2.8点,OPSは11点で対人関係能力と作業遂行能力は改善した.BsHASでは楽しみ感が向上し,OT目標の実行度は5点,満足度は4点であり,OTに成果のあったことを報告した.A氏は退院後,地域活動支援センターへ通所を始めた.
【考察】他者との交流が苦手な重度統合失調症者に対して,主観的健康状態の結果を考慮した介入は対人関係の構築と作業遂行支援に有用であり,OTRと共有した具体的な課題の遂行が安心して他者がいる場で過ごす積み上げを促進したと考えられた.主観的健康状態を考慮しながら行うOT介入は地域移行への一助になる.
【目的】OT目標の合意形成と患者の課題遂行時に,患者の主観的健康状態をツールとして用いて評価し,把握することが有用であった事例報告をする.
【方法】一事例報告.事例に対して本報告に関する説明を行い,書面にて同意を得た.
【結果】A氏,20歳代,女性,統合失調症.祖父母との同居生活を送っている.生活歴:10代に発症.短大中退.5年前に医療保護入院となり,退院後は自閉的な生活を送っていた.病的体験に伴う自殺の衝動性が高まり,当院へ医療保護入院となった.入院時の一日服薬量クロルプロマジン換算値(CP値)は838mgで精神症状評価尺度(BPRS)は51点,機能の全体的評定尺度(GAF)は25点であった.医療者からの質問には「わかりません」,「覚えていません」などの片言による返答のみであった.入院から18日目に衝動の発散目的にOT処方がなされた.
(経過,OT導入期:入院から31日目まで)A氏の意思表示が乏しく,OT目標設定に14日を要した.目標設定までは,OTの場の見学と作業体験を作業療法士(OTR)の添いのもと始めた.簡易健康自己評価尺度(BsHAS)は8点で主観的健康状態は低くなかったものの平行集団プログラムへは参加への促しを要し,集団の隅で短時間なら滞在できた. OT開始時の作業遂行能力客観評価尺度(OPS)は14点で作業遂行能力は重度課題を抱えていた.
(活動参加期:入院32日目から58日目まで)集団で他者から遠めの位置に着座し,20分程度の活動に取組めるようになった頃にOT計画に合意をえた.1)他者と一緒にすごすことができる,2)いくつかの選択肢から物事を決めることができる,3)就労継続支援への通所準備をすることを下位目標に,居宅生活を安定して送ることを目標とし,その目標の実行度は2点,満足度は3点(範囲:1~10点範囲,高得点ほど良好)であった.OTでは経過と共に塗り絵作業へ自発的に参加でき,1回あたりの活動時間量は徐々に増え,ストレッチや足湯へも体験を始めた.一方,発語がほとんどなく,目標に対する状況把握は難しかった.
(退院準備期:入院59日目から88日目まで)OTRが介入成果の進捗を週1回,BsHASを実施し,主観的健康状態を考慮した上で作業課題をA氏と共有した.A氏は課題遂行を積み上げ,いくつかの選択肢から作業を選択でき,ドリルや紙工作,折り紙などの作業にも取り組み,集団で過ごすことができるようになった.入院から88日目に退院となり,退院時CP値は1200mg,BPRSは40点,GAFは35点で,精神症状と社会機能は改善した.退院時の精神障害者社会生活評価尺度(LASMI)下位尺度対人関係(I)平均点は2.5点,労働/課題の遂行(W)平均点は2.8点,OPSは11点で対人関係能力と作業遂行能力は改善した.BsHASでは楽しみ感が向上し,OT目標の実行度は5点,満足度は4点であり,OTに成果のあったことを報告した.A氏は退院後,地域活動支援センターへ通所を始めた.
【考察】他者との交流が苦手な重度統合失調症者に対して,主観的健康状態の結果を考慮した介入は対人関係の構築と作業遂行支援に有用であり,OTRと共有した具体的な課題の遂行が安心して他者がいる場で過ごす積み上げを促進したと考えられた.主観的健康状態を考慮しながら行うOT介入は地域移行への一助になる.