第56回日本作業療法学会

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一般演題

精神障害

[OH-2] 一般演題:精神障害 2

Sat. Sep 17, 2022 1:50 PM - 3:00 PM 第8会場 (RoomE)

座長:新宮 尚人(聖隷クリストファー大学)

[OH-2-2] 口述発表:精神障害 2長期入院統合失調症者の口腔嚥下機能と歌唱活動による変化に関する探索的検討

杉浦 まり12坂井 一也2 (1医療法人大仲会大仲さつき病院,2星城大学大学院健康支援学研究科)

【背景】
フレイルは「身体的要素」「精神的要素」「社会的要素」で構成され,このうち身体的要素の一つには口腔機能が含まれ,その低下がオーラルフレイルである.これは,噛んだり呑み込んだり,滑舌が悪くなるなど口に関連する機能の低下状態である.高齢期のQOLの維持・向上には良好な会話と摂食が大きな役割を果たすことや,口腔嚥下機能の維持・改善に咀嚼を含む口腔周辺の筋力向上が有効であったとの報告が見られている.精神科病院は入院患者の高齢化が深刻化しており,オーラルフレイル該当者も含まれていると予測されるが実態は明らかではない.本研究の目的は,長期入院統合失調症者の口腔機能の実態把握と,口腔機能向上を目的とした歌唱プログラムを開発し検証する事とした.
【方法】
研究①横断研究として統合失調症長期入院患者の口腔機能の実態把握を行った.対象は,統合失調症で1年以上入院の男女65歳以上の研究に同意が得られた20名(男性7名,女性13名,平均年齢72.7±4.7歳,入院期間22.7±13.5年)を研究対象とした.診療録より服薬状況,栄養状態(アルブミン),BMI(肥満指数),GAF(機能の全体的評価),食形態(米飯,軟飯,など)を収集し,介護予防チェックリスト25項目のうち口腔・嚥下・咀嚼に係わる3項目を評価した.さらに,口腔機能評価としてオーラルディアドコキネシス(ODK),頬膨らましテスト,舌突出テスト,左右口角間距離テスト,嚥下機能評価として反復唾液嚥下テスト(RSST),改訂水飲みテスト(MWST),食支援のアセスメントとして食事中のムセの有無を評価した.次に研究②介入研究として,口腔機能向上を目的とした歌唱プロフラムを行い,検証として,介入前後で口腔機能,嚥下機能,心理社会面を,Wilcoxon符号付順位和検定を用いて分析した.有意水準は5%未満とした. 本研究は,星城大学大学院倫理委員会の承認(2020C0007)を得て実施した.
【結果】
研究①口腔機能評価のODKの対象者全体の平均回数は/pa/回/秒(3.9±0.9)/ta/回/秒(3.9±0.9),/ka/回/秒(3.4±1.0)であり,同年代(73.4±6.2歳)の地域在住高齢者のODKの平均回数, /pa/回/秒(6.3±0.4),/ta/回/秒(6.2±0.4),/ka/回/秒(5.7±0.7)と比較すると,統合失調症入院患者の口腔機能評価のODKでは全ての単音節で低下していた.研究②介入前と歌唱プログラム(8週間)+2週間後の10週間後の前後比較を行った.ODKの介入群(5名の小集団)の前後比較の結果は,/pa/は4.1±1.1から4.9±1.1(P=0.002),/ka/は3.4±0.8か ら 4.3±0.6 ( P=0.009 ) に向上した . 一 方 , 対照群は /pa/ は 3.8±1.0 か ら 3.2±0.7(P=0.083),/ka/は3.3±1.1から2.9±1.1(P=0.055)であった.心理社会面評価では,介入群の10週間後の比較では,関心・意欲・交流は6.9±2.5から7.8±2.3(P=0.055),会話は6.8±2.6から7.9±1.6(P=0.055 )であった.対照群では,関心・意欲・交流は5.4±1.2から4.6±1.2(P=0.072 ),会話は7.0±2.9から6.2±2.(P=0.346)であった.
【結論】
長期入院統合失調症者のODKは,同年代の地域在住高齢者と比較して低下傾向である事が示唆された.介入群でのODK/pa/,/ka/,心理社会面の関心・意欲・交流と会話において歌唱プログラムを通して改善している事が示唆された.一方,対照群は,口腔機能評価及び,心理社会面共に低下傾向であった.今回の研究結果から,長期入院統合失調症者の口腔機能は低下しており歌唱プログラムが口腔機能の維持改善に寄与する可能性が示唆された.また,対象者にとって満足度が高いプログラムである事が確認された.