[OH-2-3] 口述発表:精神障害 2統合失調症入院患者が感じる認知機能障害と神経認知の関係
【序論】
統合失調症の認知機能障害は注意,記憶,推論,処理速度など重要な側面を多く含み,機能的転帰に影響する(Green, 2000, 2006).統合失調症の治療は生活のしづらさを認知機能から把握し,治療者と協働することが重要であり(池淵,2018),作業療法では認知機能障害の改善を生活場面に結びつけることが重要である.しかし患者の認知機能障害に対する主観的評価と,特定の神経認知領域の客観的評価についての研究は少ない.そこで,患者の生活のしづらさを軽減するための特定の神経認知領域に焦点を当てた作業療法を計画するための,患者の感じる認知機能障害による生活の困難さと神経認知領域との関係を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象はA病院に入院患者のうち,18~65歳で,統合失調症(ICD-10;F20)と診断された者であった.入院期間等の属性や服薬量を医療記録から収集した.患者の主観的な認知機能障害の評価には統合失調症認知評価尺度日本語版SCoRS-J(Schizophrenia Cognition Rating Scale Japanese version)の患者フォームの全般評価スコアを用いた.客観的な認知機能の評価には統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版BACS-J(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia Japanese version)スコアを用いた.SCoRS-JおよびBACS-Jのスコアを用いてSpearmanの相関係数を算出した.有意水準は調整の上p<0.008とした.研究はA病院の倫理審査委員会の承認を受けて実施された.
【結果】
研究参加者は50名(男性20名,女性30名),平均年齢53.54±9.85歳であった.入院期間は172.90±122.50ヶ月,抗精神病薬服薬量クロルプロマジン換算949.91±542.32mg/day,陽性・陰性症状評価尺度の合計点は99.44±19.87,機能の全体的評定尺度のスコアは30.06±8.97であった.SCoRS-J患者全般評価スコアはBACS-J注意機能zスコアと有意な弱い負の相関関係がみられた(r = -0.376, p < 0.008).SCoRS-J介護者全般評価スコアはBACS-J 複合スコア, ワーキングメモリ,運動,注意機能,遂行機能のzスコアと有意な負の相関関係がみられた.SCoRS-J評価者全般評価スコアはBACS-J 複合スコア, ワーキングメモリ,注意機能のzスコアと有意な負の相関関係がみられた.
【考察】
本研究の対象者は,認知機能障害と精神症状が重度で,抗精神病薬服薬量が多量の長期入院統合失調症患者であり,わが国の精神科病院入院患者と同様であった.SCoRS-Jの患者全般評価スコアとBACSJの注意機能zスコアとの相関関係の結果から,認知機能を必要とする生活上の全般的な困難さを感じている統合失調症患者は,BACS-Jで測定する注意機能が低いことが示唆された.しかし相関が弱い水準であること,対象者属性が異なるがSCoRS患者全般評価スコアとBACS下位項目すべての間に相関はない(Polettiら,2012)との報告もあり,本研究の結果は慎重に検討される必要がある.本研究の結果は重度の認知機能障害や精神症状をもつ服薬量の多い入院患者に対する作業療法において,注意機能の改善が統合失調症患者の主観的な日常生活上の困難さを改善させる可能性を示唆しており,作業療法の標的を決定する際の一助になると考えられる.
統合失調症の認知機能障害は注意,記憶,推論,処理速度など重要な側面を多く含み,機能的転帰に影響する(Green, 2000, 2006).統合失調症の治療は生活のしづらさを認知機能から把握し,治療者と協働することが重要であり(池淵,2018),作業療法では認知機能障害の改善を生活場面に結びつけることが重要である.しかし患者の認知機能障害に対する主観的評価と,特定の神経認知領域の客観的評価についての研究は少ない.そこで,患者の生活のしづらさを軽減するための特定の神経認知領域に焦点を当てた作業療法を計画するための,患者の感じる認知機能障害による生活の困難さと神経認知領域との関係を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象はA病院に入院患者のうち,18~65歳で,統合失調症(ICD-10;F20)と診断された者であった.入院期間等の属性や服薬量を医療記録から収集した.患者の主観的な認知機能障害の評価には統合失調症認知評価尺度日本語版SCoRS-J(Schizophrenia Cognition Rating Scale Japanese version)の患者フォームの全般評価スコアを用いた.客観的な認知機能の評価には統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版BACS-J(Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia Japanese version)スコアを用いた.SCoRS-JおよびBACS-Jのスコアを用いてSpearmanの相関係数を算出した.有意水準は調整の上p<0.008とした.研究はA病院の倫理審査委員会の承認を受けて実施された.
【結果】
研究参加者は50名(男性20名,女性30名),平均年齢53.54±9.85歳であった.入院期間は172.90±122.50ヶ月,抗精神病薬服薬量クロルプロマジン換算949.91±542.32mg/day,陽性・陰性症状評価尺度の合計点は99.44±19.87,機能の全体的評定尺度のスコアは30.06±8.97であった.SCoRS-J患者全般評価スコアはBACS-J注意機能zスコアと有意な弱い負の相関関係がみられた(r = -0.376, p < 0.008).SCoRS-J介護者全般評価スコアはBACS-J 複合スコア, ワーキングメモリ,運動,注意機能,遂行機能のzスコアと有意な負の相関関係がみられた.SCoRS-J評価者全般評価スコアはBACS-J 複合スコア, ワーキングメモリ,注意機能のzスコアと有意な負の相関関係がみられた.
【考察】
本研究の対象者は,認知機能障害と精神症状が重度で,抗精神病薬服薬量が多量の長期入院統合失調症患者であり,わが国の精神科病院入院患者と同様であった.SCoRS-Jの患者全般評価スコアとBACSJの注意機能zスコアとの相関関係の結果から,認知機能を必要とする生活上の全般的な困難さを感じている統合失調症患者は,BACS-Jで測定する注意機能が低いことが示唆された.しかし相関が弱い水準であること,対象者属性が異なるがSCoRS患者全般評価スコアとBACS下位項目すべての間に相関はない(Polettiら,2012)との報告もあり,本研究の結果は慎重に検討される必要がある.本研究の結果は重度の認知機能障害や精神症状をもつ服薬量の多い入院患者に対する作業療法において,注意機能の改善が統合失調症患者の主観的な日常生活上の困難さを改善させる可能性を示唆しており,作業療法の標的を決定する際の一助になると考えられる.