[OH-2-6] 口述発表:精神障害 2精神科病棟における隔離・身体拘束患者へ個人作業療法を行った症例を経験して
【はじめに】作業療法士の役割として,隔離・身体拘束の患者に対し作業を用いた関わりを通して,慢性化し放置されることを防ぎ,自発性を引き出していく必要性が示唆された(長谷川利夫,2013)と報告がある.今回,身体拘束時間の部分解除時に個人作業療法(個人OT)を実施した症例を経験したため,その介入意義と課題の考察を報告する.
【対象・方法】40代女性,診断名は統合失調感情障害.当院に外来通院しており,今回,向精神病薬を大量服薬して救急搬送され医療保護入院となった.入院4病日目から作業療法を開始し,隔離・身体拘束となった期間に焦点を当て,研究デザインはシングルケースデザイン(AB法)を用いた.隔離・身体拘束にて個人OTが実施できなかった30日間をA期(ベースライン期),身体拘束時間の部分解除時に医師の指示にて個人OTを行った33日間をB期(介入期)と設定した.測定指標は精神科リハビリテーション行動評価尺度(Rehab)とBarthel Index(BI),抗精神病薬投与量はクロルプロマジン換算(CP換算)(稲垣,1999),簡易精神症状評価尺度(BPRS)を用いた.最小二乗法による回帰直線を用い,統計的手法である二項分布を用いて効果判定を行った.なお,報告に際し当院の研究倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】入院時のセルフケアは自立.軽躁状態にて隔離処遇となり,その後幻覚や妄想,粗暴行為,抑うつ症状による希死念慮や自傷行為も認め身体拘束となった.A期1日目のRehabは43,BIは100点,CP換算値は1200mg,BPRSは80点であり,幻覚や妄想,敵意も著明で食事拒否も認めた.B期1日目は敵意や粗暴行為が軽快してきた時点で医師の指示にて個人OTの介入となった日で,Rehabは119,BIは35点,CP換算値は1200mg,BPRSは60点であり,幻覚・妄想による行動化や興奮は減少したが食思不振や抑うつ症状,不安は残存していた.B期ではストレッチや歩行訓練,トイレ動作訓練等を行い,訓練の中で自己洞察を深める関わりを図った.徐々に抑うつ症状や不安は軽減し,ADL能力も改善したがB期33日目のRehabは105,BIは85点,CP換算値は1400mg,BPRSは61点であり,妄想の再燃や易怒性,敵意も認めた.最小二乗法にてRehab,BIともに勾配に改善を認め,二項分布ではA期とB期でRehab,BIは有意差を認めた(p<0.01).CP換算値,BPRSは有意差を認めなかった.
【考察】身体拘束の長期化は廃用の進行が懸念される.また,BPRSの下位項目の「緊張」はADLに影響を及ぼす(藤松久恵,2013)と報告がある.A期の「緊張」は中等度であり,RehabとBIの低下は精神症状と離床機会の減少による影響が考えられた.BPRSは「敵意」「幻覚による行動」「非協調性」等が改善し,安全な薬物療法と外部からの刺激の抑制が奏効したと考える.B期ではADLアプローチとして達成可能に近い基本動作から訓練し,正のフィードバックを行い自己洞察を図った.達成に伴い,能力の改善を実感し「歩いてトイレに行きたい」と自発性に繋がる動機付けとなった.次にトイレ実動作へ展開し,自己評価と能力の改善を認識し,不安の軽減によりBPRSの「緊張」「不安」「抑うつ気分」は改善し,Rehab,BIの改善に繋がったと推測する.この結果からADL能力の改善や自発性の向上,不安の軽減に関しては介入意義があったが,B期でBPRSが改善しなかった項目は課題となった.妄想の再燃による「幻覚による行動」「興奮」等の重度化を考慮に入れ,介入時期の検討や耐久性を踏まえた負荷量の配慮も必要になると考える.今後は身体拘束時・解除時の精神症状が治療成果に及ぼす影響や身体拘束期間から介入した際の予後の調査,複数例の検討も行いたい.
【対象・方法】40代女性,診断名は統合失調感情障害.当院に外来通院しており,今回,向精神病薬を大量服薬して救急搬送され医療保護入院となった.入院4病日目から作業療法を開始し,隔離・身体拘束となった期間に焦点を当て,研究デザインはシングルケースデザイン(AB法)を用いた.隔離・身体拘束にて個人OTが実施できなかった30日間をA期(ベースライン期),身体拘束時間の部分解除時に医師の指示にて個人OTを行った33日間をB期(介入期)と設定した.測定指標は精神科リハビリテーション行動評価尺度(Rehab)とBarthel Index(BI),抗精神病薬投与量はクロルプロマジン換算(CP換算)(稲垣,1999),簡易精神症状評価尺度(BPRS)を用いた.最小二乗法による回帰直線を用い,統計的手法である二項分布を用いて効果判定を行った.なお,報告に際し当院の研究倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】入院時のセルフケアは自立.軽躁状態にて隔離処遇となり,その後幻覚や妄想,粗暴行為,抑うつ症状による希死念慮や自傷行為も認め身体拘束となった.A期1日目のRehabは43,BIは100点,CP換算値は1200mg,BPRSは80点であり,幻覚や妄想,敵意も著明で食事拒否も認めた.B期1日目は敵意や粗暴行為が軽快してきた時点で医師の指示にて個人OTの介入となった日で,Rehabは119,BIは35点,CP換算値は1200mg,BPRSは60点であり,幻覚・妄想による行動化や興奮は減少したが食思不振や抑うつ症状,不安は残存していた.B期ではストレッチや歩行訓練,トイレ動作訓練等を行い,訓練の中で自己洞察を深める関わりを図った.徐々に抑うつ症状や不安は軽減し,ADL能力も改善したがB期33日目のRehabは105,BIは85点,CP換算値は1400mg,BPRSは61点であり,妄想の再燃や易怒性,敵意も認めた.最小二乗法にてRehab,BIともに勾配に改善を認め,二項分布ではA期とB期でRehab,BIは有意差を認めた(p<0.01).CP換算値,BPRSは有意差を認めなかった.
【考察】身体拘束の長期化は廃用の進行が懸念される.また,BPRSの下位項目の「緊張」はADLに影響を及ぼす(藤松久恵,2013)と報告がある.A期の「緊張」は中等度であり,RehabとBIの低下は精神症状と離床機会の減少による影響が考えられた.BPRSは「敵意」「幻覚による行動」「非協調性」等が改善し,安全な薬物療法と外部からの刺激の抑制が奏効したと考える.B期ではADLアプローチとして達成可能に近い基本動作から訓練し,正のフィードバックを行い自己洞察を図った.達成に伴い,能力の改善を実感し「歩いてトイレに行きたい」と自発性に繋がる動機付けとなった.次にトイレ実動作へ展開し,自己評価と能力の改善を認識し,不安の軽減によりBPRSの「緊張」「不安」「抑うつ気分」は改善し,Rehab,BIの改善に繋がったと推測する.この結果からADL能力の改善や自発性の向上,不安の軽減に関しては介入意義があったが,B期でBPRSが改善しなかった項目は課題となった.妄想の再燃による「幻覚による行動」「興奮」等の重度化を考慮に入れ,介入時期の検討や耐久性を踏まえた負荷量の配慮も必要になると考える.今後は身体拘束時・解除時の精神症状が治療成果に及ぼす影響や身体拘束期間から介入した際の予後の調査,複数例の検討も行いたい.