第56回日本作業療法学会

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一般演題

発達障害

[OI-3] 一般演題:発達障害 3

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第7会場 (RoomD)

座長:立山 清美(大阪公立大学)

[OI-3-2] 口述発表:発達障害 3「やりたいことをできるようにする」作業療法の効果について

野村 寿子1羽場 悠樹1 (1株式会社ピーエーエス)

はじめに
(株)ピーエーエスは,(株)ワンラブコーポレーションが企画・実行する「TOKIOプロジェクト」において,パラリンピック2020卓球チーム監督の伊藤誠氏と共に,重度脳性麻痺の5歳男児が卓球を楽しむことができるようになることを目的とした作業療法を行った.その結果卓球以外に基本的な運動機能,精神発達,発生や嚥下に至るまで日常生活動作にも大きく影響を与えた.具体的な支援の方法と経過,および活動そのものを目的とする作業療法の可能性について考察する.
症例
Kくん 脳性麻痺の5歳男児.
全身の筋緊張が高く,何かをしようとすると手を握り混み全身を突っ張ってバギーに座り続けることができない.股関節は内転・内旋方向への緊張が強く,臥位でも痛みで泣き出すことがあった.「卓球をしたいが,ラケットを持ち続けることも難しい」という主訴があり,月一回の卓球プログラムを行うこととなった.
活動分析と目標設定
まず卓球という活動の構成要素を細分化した.その中でKくんができていることは「球を見る」「相手に気づく」「音を聞く」「周りで見ている人に気づく」「みんなと一緒に盛り上がる」であり,できないことは「ラケットを持つ」「球を打つ」「球を追う」「ゲームをする」「勝敗を理解する」「相手の動きを見る」「球を打つために移動する」「球を打つために腕を動かす」「球を打ち返す」「卓球台の上で行う」「サーブする」「サーブを受ける」「ラリーする」「集中力を持続させて何度も繰り返す」であった.そして「努力や感情に伴って緊張が高まり姿勢を保つことができない」「動作時の股関節周囲筋の緊張が脱臼の危険性を高める」という問題点を考慮して,「力を抜いてラケットを持ち続ける」「活動中でも過度に身体を緊張させることなくやりとりを楽しむことができる」「卓球という活動を理解して,自ら行うという自覚を持つ」という短期目標を設定した.
経過(2021.4~2021.9)
1回目 握ることの難しさがその他の楽しさを阻害していると考え,手のひらで大きいボールをゆっくりと転がす活動から始め,次にラケットを持って球が当たる感触と音を楽しむことを促した.2回目 動いて球を打つという課題を達成するために,わずかな自発的な動きを反映する車椅子を用いて練習を行う.セラピストは頭部からコントロール.テーブルを挟んで向こう側の相手を見て,車椅子の動きを使いながら他動的に球を打つこと,ネット越しに球が来ることを経験した.3回目 身体に適合した姿勢保持クッションを使用.小さい卓球台を使って練習する.頭部からのコントロールとラケットを持つ手を介助することで動きを伴って打つ動作ができはじめる.4回目 相手を意識して試合を楽しむことができる.周りの歓声に感情が高ぶり,試合終了時に負けたことがわかり泣き出す.5回目 卓球台を大きくして練習.リラックスしてラケットを持ち続けることができるようになる.ラケットに球を置いて集中して見続けることを促す.6回目 集中して相手を見て,球を見続けて,他動的な動きに対して身体を合わせることができる.
結果
活動を分析し丁寧に段階づけを行った6回の作業療法によって,緊張で身体が傾きラケットを持ち続けることができなかったKくんは,自らラケットを持ち相手を意識して卓球を楽しむことができるようになった.さらに手や足を使って移動することに興味が出てきて,自走車椅子や歩行器の練習ができるようになった.日常生活においても,頭を上げやすくなり,声が大きくなって咀嚼嚥下がスムーズになり,よだれが減るという変化が見られた.