第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

発達障害

[OI-3] 一般演題:発達障害 3

2022年9月17日(土) 10:10 〜 11:10 第7会場 (RoomD)

座長:立山 清美(大阪公立大学)

[OI-3-3] 口述発表:発達障害 3小学生におけるcancelation task遂行中の前頭前皮質脳活動と課題成績,ADHD特性との関連性

矢野 幸治12鈴木 暁子2惠 明子2愼 重弼3安村 明4 (1児童発達支援センターlapoale,2熊本大学大学院社会文化科学教育部,3会津大学情報システム学部門パターン処理学講座,4熊本大学大学院人文社会科学研究部)

【目的】選択性注意機能を測定する検査としてCancelation Task (CT)は臨床や研究領域で幅広く使用されている.注意欠如多動症(ADHD)児・者はCTの課題成績が定型発達児・者よりも低下することが明らかとなっているが,課題遂行中の脳活動の特徴や刺激配列の違いによる成績との関連性などは解明されていない.筆者らは脳活動を測定するfNIRSに対応したブロックデザイン型のCTを開発し,健常成人において課題遂行中に前頭前皮質(PFC)の脳活動が賦活することや課題成績とADHD特性との関連性があることを解明してきた.本研究ではこれらの結果を踏まえ,定型発達児における課題遂行中の脳活動や課題成績とADHD特性との関連性を検討することを目的とした.本研究の意義は,注意面に問題のある児童の特性を把握するための基礎研究となり,支援方法を検討していくうえで重要な知見を得られることである.
【方法】対象者は神経発達症の診断を受けていない6~12歳の児童24名(男児12名,年齢10.97±1.90歳,全員右利き)であった.なお本研究は熊本大学大学院人文社会科学研究部倫理審査委員会による承認を得ており(受付番号:第45号),保護者による文章同意及び児童本人にも口頭で実験参加の賛意を得ている.
【実験環境と手続き】ペンタブレットはWacom Cintiq Pro 16を使用し,画面が机の端から15㎝の距離になるように配置した.対象者はタブレットと眼球との距離が約40㎝で,体幹の正中線上にタブレットの中央が位置するような座位姿勢で課題を実施した.課題遂行中のPFCの脳活動をfNIRS(OEG-16)で測定した.測定は休息(20秒)と課題(30秒)を5回連続で交互に実施した.課題は配列の異なる2種類(構造化配列・ランダム配列)を使用し,実施順序は対象者ごとにカウンターバランスをとった.課題成績は正答数,誤答数,的中率,Performance Score(PS)を算出した.課題遂行中のoxyHb濃度変化はfNIRSより得られたデータからz値を算出した.行動面におけるADHD特性は保護者への質問紙評価(Swanson, Nolan, and Pelham Rating Scale; SNAP-Ⅳ)を実施した.また抑制機能や注意の持続機能に関しては子ども用のCPT課題であるもぐらーずを実施して評価した.
【統計解析】課題遂行中のoxy-Hb濃度変化と課題成績,SNAP-Ⅳのスコア,もぐらーずの成績との関連性を相関分析を用いて検討した.なお年齢要因の影響が認められた変数間の関連性は偏相関係数で解析した.危険率は5%とした.
【結果と考察】構造化配列において,誤答数とSNAP-Ⅳの反抗挑戦性スコア,合計スコアにおいて有
意な正の相関が認められ,的中率ともぐらーずの反応変動率とに有意な負の相関が認められた(それぞれ<p < .05).これは行動面においてADHD特性がある児童やもぐらーずの反応時間のばらつきの大きい児童ほどCTで多く間違えていることを示す結果であった.ADHDの特性の一つに干渉抑制機能の障害や衝動性があり,特性のある児童ほどCTの妨害刺激を上手く抑制できずに誤答数が増加していた可能性が考えられた.またランダム配列ではz値ともぐらーずの正答率において有意な負の相関が認められ,z値ともぐらーずのお手つき率,総合エラー率において有意な正の相関が認められた(それぞれp < .05).これはもぐらーずで誤答数が多い児童ほど,課題遂行中のPFC脳活動が高くなっていることを示しており,もぐらーずで抑制が上手くできずに間違えてしまった児童にとってCTを実施することが難しく,結果として課題遂行中の脳活動が増大していた可能性が示唆された.今後は本研究結果を基礎データとし,ADHD児における選択性注意や脳機能の特徴を把握する研究につなげていきたい.