第56回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-1] 一般演題:高齢期 1

Fri. Sep 16, 2022 12:10 PM - 1:10 PM 第7会場 (RoomD)

座長:木村 大介(関西医療大学)

[OJ-1-4] 口述発表:高齢期 1廃用後の活動性低下によりリハビリテーション拒否があった患者への対応

紙谷 綾乃1 (1医療法人社団桐和会 川口さくら病院リハビリテーション科)

【はじめに】回復期病棟における廃用症候群リハビリテーションの算定日数は120日と定められており,短期間での機能改善や然るべきところへの転帰を早期に望まれている.しかし,臨床場面において離床を拒否し,介入ができずリハビリテーションが進捗しない例も多く存在する.今回,誤嚥性肺炎後廃用症候群により,活動低下しADL全介助でリハビリテーションに拒否がみられた患者に対して,チェックリストを使用して介入内容を明示することがきっかけで受け入れに繋がった事例を経験したので報告する.対象となる患者さん・家族には演題発表に関する同意を得ている.
【症例】80歳代男性.両側誤嚥性肺炎の診断で急性期病院に入院.27病日に回復期リハビリテーション病院に転院.既往歴は前頭側頭型認知症,無症候性ラクナ梗塞.妻と二人暮らし,スポーツ観戦や身体を動かすことが好きだった.二度肺炎で入退院を繰り返していたが今回の病前ADLは自立していた.本人の希望は家に帰りたい,家族もご飯が食べられるようになってほしい,歩けるようになってほしいと自宅退院の受け入れに前向きだった.基本動作は中等度介助,車いす座車は10分で疲労の訴え.ADLは全介助.嚥下機能障害あり,経口摂取できず末梢静脈栄養(PNN)を投与.排泄はオムツを使用.病棟生活ではベッドに臥床していることが多く,昼夜逆転傾向だった.廃用の進行により離床に消極的で気分変動が激しく,リハビリテーションに対する拒否も多く運動のきっかけをつかめないでいた.気分の良い時は車いすに座ることや,サークル歩行器を使用し歩行練習が可能になる日もあったが,52病日に胃瘻造設し病棟転棟後した頃から傾眠傾向で,さらに不活発な状態となり連続的な離床拒否状態に陥った.日課としての意識を促すために毎日のリハビリテーション時間を提示し,その時間にスタッフが来ると伝えることを繰り返すと離床には繋がったが,運動や活動の気力も体力も続かなかった.一定時間の運動や活動を行う目的で介入内容をメモに提示し,記載したメニューを一緒にチェックしながら進めるとチェックリスト介入開始5日後くらいより1時間の運動や活動が可能となった.そこから運動負荷量を徐々にあげたところ,病棟生活にも変化がみられた.基本動作は見守り,移動手段は介助歩行.ADLは見守り~軽介助.食事は胃瘻からの栄養だが,ヨーグルト・プリンなど限定した食べ物であれば経口摂取可能となった.排泄はリハビリパンツを使用し,日中トイレに行く習慣がつき失禁も減少した.病棟生活では一人でトイレや運動したいと病室から出てくるなど自発的な行動が増えた.家族に患者の状態を動画みせたところ,特に患者が歩けていることに喜び,より具体的な退院後の生活イメージをしてもらえた.退院前にはサービス内容の検討や家族に手技の指導を多職種と行い,86病日に自宅退院となった.初期評価(27病日)→最終評価(75~85病日)は以下の通り.FIM-M13点→38点,FIM-C10点→12点,MMSE拒否により不可,重度認知症評価27/30→27/30,CDR3点→2点,NMスケール11/50→23/50. 10m歩行実施不可→快適15秒28歩.
【考察】リハビリテーション介入を拒否する対象者に運動療法やADL再獲得の必要性を理屈で解いても伝わらないことが多い.目標共有が言語化なされて進められることが望ましいが,「時間通りに顔を見る」「起きるだけ」「一緒に部屋の外に出る」という行動習慣の積み上げから機能改善や能力向上を進めていく介入も必要であると考えられた.今回チェックリストで内容を明示したことは患者にとって「やらなきゃいけない」という行動習慣に繋がったのかもしれない.