第56回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-1] 一般演題:高齢期 1

Fri. Sep 16, 2022 12:10 PM - 1:10 PM 第7会場 (RoomD)

座長:木村 大介(関西医療大学)

[OJ-1-5] 口述発表:高齢期 1高齢者の退職による役割喪失を予防するためにMICが有効であった事例

木田 聖吾1長嶺 侑佳1永田 真雄1 (1<ims>イムス板橋リハビリテーション病院リハビリテーション科)

【MICとは(山田孝監訳,2020)】
「明らかにすること,地域生活,可能性,レジリエンス(回復力).高齢者のためのマニュアル」(以下,MIC)は高齢者の地域における回復力を支援する根拠に基づいた枠組みを構築するために開発された質問紙とマニュアルである.質問紙は4件法で34項目の採点から介入する必要がある話題を特定する.その後,マニュアルにて人々と一緒に取り掛かるための質問や助言,資源の情報を提供する.
【はじめに】
高齢期の退職は社会参加の機会喪失につながる可能性があるなどネガティブな影響があることが述べられている(藤原佳典,2016).また,介護老人保健施設にてMICを使用して作業参加を促進したという報告のほかに日本におけるMICを使用した報告はない(篠原千春,2020).今回,脳卒中の発症を機に仕事を退職し,役割喪失による社会参加の機会を喪失する可能性が高い事例を担当した.事例に対してMICを用いたことで勤労者からボランティアへ役割を移行することができた.本事例から回復期退院後の役割喪失による社会参加機会の狭小化を予防するためにMICが有効である可能性が示唆されたため報告する.本発表について本人に口頭及び書面にて同意を得ている.
【事例紹介】
A氏,70代男性.診断名は左基底核梗塞.生活歴としては妻と二人暮らしをしており,電化製品の修理を生業としていた.お得意先との関わりを楽しみながら生活していたが今回の発症を機に退職している.趣味は麻雀と飲酒であり,アルコール依存症で精神科へ入院歴がある.
【作業療法評価】
入院3カ月後,COPM(遂行度ー満足度)トイレに一人で行ける(5ー5)→(10ー10),右手で箸を使って食事ができる(1ー1)→(8ー9),自宅内を安全に歩行できる(1ー1)→(9ー9)となり,FIMは89→116/126点となり自宅退院は可能となった.しかし,退職による生活習慣の乱れを妻から相談されMICを使用して評価を行った.MICにて仕事,責任,価値,資源の項目にて減点が目立った.A氏からは「家に帰ってもなにもすることがないよ.」との発言が聞かれた.
【介入】
 MICマニュアルに則り仕事の価値を聴取した.最近は金銭を稼いで家族を養うことが目的ではなく,得意先との談笑や自分より高齢な方のために助言できることに価値を置いていることを共有し,本当は役割を継続したい気持ちがあることを明らかにした.そこで,MICマニュアルの助言をもとにボランティアとして役割を継続することを提案した.また,妻に対してA氏の思いを代弁して伝え,A氏の役割が継続できるように支援してほしいことを伝達した.合わせてデイサービスやシニアクラブなどの余暇人,地域住民としての役割を継続するための資源を紹介した.
【結果】
 入院4カ月後,A氏と妻の同意の上で自宅退院となった.退院後の電話聴取にてデイサービスへ参加し,麻雀を通して余暇人としての役割が再獲得できていることが確認された.さらにボランティアとして得意先に対する電化製品に関する助言や談笑を行い,役割を再獲得できていた.A氏からは「今でも誰かのためになれるのはいいね.」と前向きな発言が聞かれた.
【考察】
 レジリエンスに寄与する環境要因では,ソーシャルサポートの重要性が指摘されている(児玉正博,2021).本事例から退職というライフクライシスを経験している方に対してMICを使用して役割の移行を提案することや社会資源の紹介を行うことは役割喪失や社会参加機会の狭小化を予防するために有効である可能性が示唆された.