第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

高齢期

[OJ-3] 一般演題:高齢期 3

2022年9月17日(土) 09:00 〜 10:00 第7会場 (RoomD)

座長:小池 祐士(埼玉県立大学)

[OJ-3-3] 口述発表:高齢期 3回復期リハビリテーション病棟における退院支援の方法を考える

コロナ前とコロナ禍の比較

多良 麻友美1清水 竜太1岩谷 清一1澤田 有希2西川 宏美1 (1医療法人社団永生会永生病院リハビリテーション部,2帝京科学大学医療科学部 作業療法学科)

【はじめに】
 当院回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ病棟)の取り組みとして,2019年度から退院後の生活状況を電話にて聴取した.2020年度はコロナ禍により退院支援の方法を変更せざるを得ない状況であったが,電話での聴取はコロナ禍も継続した.今回,退院後の生活状況をコロナ前とコロナ禍で比較し,退院支援の違いによる影響を調査した結果,介護保険サービスの利用状況や転倒件数に変化が認められたため報告する.
【方法】
 対象は,当院回リハ病棟に入院し,2019年4月~2021年3月末に自宅退院した患者で,電話にて聴取できた191名とした.2019年4月~2020年3月末に退院した95名(年齢79.3±11.9歳)をコロナ前群,2020年4月~2021年3月末に退院した96名(年齢79.8±9.8歳)をコロナ禍群とした.
 回リハ病棟退院2~3週間後,電話にて本人や家族またはケアマネージャーに,退院後の生活状況を聞き取りシートに沿って調査した.その結果をコロナ前群とコロナ禍群の2群間で比較した.比較項目は①疾患区分,②年齢,③在院日数,④退院時FIM,⑤退院前訪問指導の有無,⑥介護保険サービス,⑦転倒,⑧困りごととした.在院日数やFIMの結果についてはMann-WhitneyのU検定,退院前訪問指導やサービスの利用の有無に関してはカイ2乗検定を行い,有意水準はp=0.05とした.
 退院支援の方法として,コロナ前は家族やケアマネージャーと連絡をとり,患者同伴での家族指導や退院前訪問指導等を対面で実施した.しかし,コロナ禍は原則面会禁止となり,家族やケアマネージャーとは電話連絡や紙面・動画を用いた家族指導や退院前訪問指導を行った.また,在宅スタッフとも連絡を取り合い退院時の環境調整や生活状況の確認を依頼した.
【結果】
 コロナ前群とコロナ禍群の2群間で,疾患区分は運動器,脳血管,廃用症候群で有意差はなかった.平均在院日数(76.7日→73.8日),退院時のFIM合計得点(94.7点→94.3点)と有意差はなかった.退院前訪問指導の件数(36件→2件)はコロナ禍が有意に少なく,退院後のサービスでは通所リハの利用(16名→6名)が有意に減少した(p<0.05).訪問リハの利用(21名→25名),退院から電話調査期間内での転倒(6名→10名)は増加したが有意差はなかった.困りごとについては,コロナ前群で肩・腰・膝の痛み,排泄ケア,食事の順に多く,コロナ禍群は下肢の浮腫,食事,排泄ケアの順に多かった.
【考察】
 コロナ禍になり感染拡大防止のため,対面での家族指導や退院前訪問指導はできない状況となった.まず,自宅退院に至る患者相については,退院時のFIMや患者・家族による意向が大きかった.次に,訪問リハの増加と通所リハの有意な減少については,コロナ禍による外出制限,退院時の環境調整や生活状況の確認の依頼のためと考えられた.また困りごとの順位の変化については,活動範囲の制限による活動量の低下が考えられた.退院から電話調査期間内(2~3週間)での転倒については,在宅スタッフとの連携により回避できた側面もあったと考えられたが,紙面や動画での家族指導や環境調整のみでは不十分であったことも示唆された.最後に,今後としては退院後も継続できるセルフケアや自主トレーニングを指導し,生活範囲の拡大の提案を行い,活動量を維持・向上にも視点を向けていきたい.そして,感染状況が収束してきた際には,共に生活していく家族や在宅スタッフと一緒に,実際に退院後に生活する場所で退院前訪問指導等を再開していきたい.