第56回日本作業療法学会

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一般演題

高齢期

[OJ-4] 一般演題:高齢期 4

Sat. Sep 17, 2022 1:40 PM - 2:40 PM 第7会場 (RoomD)

座長:菅野 圭子(佛教大学)

[OJ-4-1] 口述発表:高齢期 4重度認知症患者に対する歩行車操作獲得に向けた介入

視覚的教示と聴覚的教示を併用して

公文 康輔1佐々木 愛理1中山 智晴1有光 一樹2 (1医療法人五月会須崎くろしお病院,2高知リハビリテーション専門職大学)

【はじめに】
今回,身体機能低下により,杖歩行から歩行車使用に至った症例に対して視覚的教示を実施するが有効に機能しない認知症患者を経験した.その症例に対して,視覚的教示と聴覚的教示を実施する事で歩行車を認識し動作の定着に至った結果を以下に報告する.なお,本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院倫理委員会の承認を得て実施しており,研究の趣旨を本人と家族に十分説明し,同意を得ている.
【症例紹介】
症例は,80代女性.既往にアルツハイマー型認知症あり.有料老人ホームに入所しており,ADLは概ね自立.施設内の移動は杖歩行一部介助レベル,自室内は伝い移動にて自立していた.入院前より施設内移動時に杖を忘れることがあり,転倒も認めていた.介護認定は要介護1判定であった.
平成X年,発熱,食欲不振を認め当院受診,検査結果より急性肺炎の診断あり入院となる.翌日よりリハビリ開始し12病日回復期病棟へ転棟となる.リハビリ開始時より杖歩行一部介助レベル,歩行車は見守りレベルであったが歩行車を忘れるため声かけが必要であった.24病日退院前訪問指導を行い,施設職員より今後転倒の危険性もあるため歩行車導入希望あり.翌日より歩行車移動獲得を目標として,歩行車に「Aさんへ,歩くときはこの歩行車を押してください」と紙に書いて提示した.しかし,紙を確認しないため定着しなかった.介入前評価(25病日)は,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R)9/30点,Manual Muscle Testingは右足関節背屈3レベル,基本動作は支持物使用し見守りで可能,Functional Independence Measure(以下,FIM)は72/126点であり移動は5点と監視レベル,病棟内ではフリーハンドで歩くことがあり,常に監視が必要であった.
【介入方法】
歩行車移動定着に成功させるため視覚的教示に聴覚的教示を追加した3段階の難易度設定を行った.段階1は,歩行前に聴覚的教示として「歩く前にこの紙を見てください」+視覚的教示,歩行車を目の前にセッティング.段階2は,視覚的教示,歩行車を目の前にセッティング.段階3は視覚的教示,歩行車を部屋の入口にセッティング.1セット5回を1日2回実施し,5回すべて成功した場合,次の段階へ移行した.また,課題に成功した場合は即時的に称賛を行った.
【結果】
26病日より介入し,4日で視覚的教示のみで歩行車定着ができた.介入後評価(30病日)では,HDS-Rは7/30点,FIMでは73/126点と移動動作が6点の修正自立となった.
【考察】
 今回,認知症を患っていた方が歩行車を使用する方法として,視覚と聴覚を用いて段階的に教示し歩行車獲得につながった事例を担当した.機能しなかった視覚的教示に聴覚的教示を追加することで歩行車を認識し動作定着に成功した.そして,聴覚的刺激をフェイディングすることで視覚的教示による歩行車への認識が可能となり行動をコントロールする機能を再獲得したものと考えられた.認知症患者も身体的機能などの変化によって余儀なく新しい環境となる.認知症患者に対して新しい生活習慣や知識の習得は困難とされることが多い中,今回のように段階的に教示したことは認知症患者の学習に対して大きな意義になると考える.