[OJ-5-1] 口述発表:高齢期 5地域在住高齢者の視線行動と認知機能,生活行為の関連性
【序論】軽度認知障害や軽度認知症のある高齢者は認知機能の低下により視覚探索効率が低下している可能性がある(小田桐ら,2017).高齢者の視線行動を把握することは非効率的となりがちな生活行為への支援に役立つと考える.本研究では身近な生活場面を想定した探索課題を用いて地域在住高齢者の視線行動と認知機能,生活行為の関連性を検討した.
【方法】対象は80歳以上の地域在住高齢者39名であり通所リハビリテーションとシルバー人材センターからリクルートした.対象には研究内容を説明し同意を得て実施した.顕著な整形疾患,神経疾患などによる生活行為障害や眼球運動障害を認める者は除外した.対象には3つの評価を実施した.①視線行動課題:眼球運動測定装置(竹井機器工業社製TalkEye Lite,右眼球検出)を装着し冷蔵庫内(野菜室)の静止画像を用いた探索課題.椅子座位で対象者と課題の距離は65㎝とした.教示された3つの野菜を探索する間の眼球運動スピード,平均注視時間,対象物の注視回数を算出した.視線が対象物に1/15秒以上停留した場合を注視とした.②認知機能検査:Montreal Cognitive Assessment日本語版(MoCA-J).③生活行為調査:我々の調査(Ikeda Yら,2019)をもとに高齢者が早期に困難さを感じやすい生活行為を生活行為工程分析表(PADA-D)から27項目抽出し,実施状況を「はい/いいえ」で確認した(81点満点).全対象者の視線運動とMoCA-J,PADA-Dの関係性はピアソン相関係数を求めた.次に対象者をデイケア群(n=19,平均年齢86.0±5.3歳)とセンター群(n=20,平均年齢83.45±2.7歳)に分類し,各群においてPADA-Dを従属変数, 眼球運動スピード,平均注視時間,対象物の注視回数を独立変数,年齢とMoCA-Jを共変量として重回帰分析を実施した.統計はRver4.1.1を用い,有意水準は5%未満とした.本研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】対象者の平均年齢は84.7±4.3歳,女性のみ,MoCA-J20.7±4.4点,PADA-D得点72.3±7.5点であった.センター群はデイケア群に比べ,有意にPADA-D得点は高く(77.0±3.7点,p<0,001),対象物の注視回数は多かった(5.9±5.5回,p<0.001).全対象者の眼球運動スピードとMoCA-Jには有意な負の相関(r=-.48, p=.001),平均注視時間とPADA-D得点には有意な正の相関(r=.34, p=,03)を認めた.デイケア群のPADA-Dは年齢(β=.68,95%CI=-1.76 -.08, p=0.03)に影響を受けた一方でシルバー群では関連性を認めなかった.
【考察】認知機能の低下による眼球運動スピードの遅延や注視時間の増加が示されており,アルツハイマー病患者では対象物の注視回数の減少と視野領域の狭小化も示唆されている(Daffiner K ら,1992).本研究の対象者は認知機能と眼球運動スピードに負の相関を認めた.認知機能に問題のない者は新規性の高い課題に対しより注意深くなる傾向を示した報告(Crutcher M,ら ,2009)を支持しているものと考える.平均注視時間と生活行為の自立度は有意な正の相関を認めた.生活行為の支援において注視時間にも留意するべきかもしれない.今後は加齢の影響や他の生活場面の課題を含めた視線行動の検討を行う必要がある.
【方法】対象は80歳以上の地域在住高齢者39名であり通所リハビリテーションとシルバー人材センターからリクルートした.対象には研究内容を説明し同意を得て実施した.顕著な整形疾患,神経疾患などによる生活行為障害や眼球運動障害を認める者は除外した.対象には3つの評価を実施した.①視線行動課題:眼球運動測定装置(竹井機器工業社製TalkEye Lite,右眼球検出)を装着し冷蔵庫内(野菜室)の静止画像を用いた探索課題.椅子座位で対象者と課題の距離は65㎝とした.教示された3つの野菜を探索する間の眼球運動スピード,平均注視時間,対象物の注視回数を算出した.視線が対象物に1/15秒以上停留した場合を注視とした.②認知機能検査:Montreal Cognitive Assessment日本語版(MoCA-J).③生活行為調査:我々の調査(Ikeda Yら,2019)をもとに高齢者が早期に困難さを感じやすい生活行為を生活行為工程分析表(PADA-D)から27項目抽出し,実施状況を「はい/いいえ」で確認した(81点満点).全対象者の視線運動とMoCA-J,PADA-Dの関係性はピアソン相関係数を求めた.次に対象者をデイケア群(n=19,平均年齢86.0±5.3歳)とセンター群(n=20,平均年齢83.45±2.7歳)に分類し,各群においてPADA-Dを従属変数, 眼球運動スピード,平均注視時間,対象物の注視回数を独立変数,年齢とMoCA-Jを共変量として重回帰分析を実施した.統計はRver4.1.1を用い,有意水準は5%未満とした.本研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】対象者の平均年齢は84.7±4.3歳,女性のみ,MoCA-J20.7±4.4点,PADA-D得点72.3±7.5点であった.センター群はデイケア群に比べ,有意にPADA-D得点は高く(77.0±3.7点,p<0,001),対象物の注視回数は多かった(5.9±5.5回,p<0.001).全対象者の眼球運動スピードとMoCA-Jには有意な負の相関(r=-.48, p=.001),平均注視時間とPADA-D得点には有意な正の相関(r=.34, p=,03)を認めた.デイケア群のPADA-Dは年齢(β=.68,95%CI=-1.76 -.08, p=0.03)に影響を受けた一方でシルバー群では関連性を認めなかった.
【考察】認知機能の低下による眼球運動スピードの遅延や注視時間の増加が示されており,アルツハイマー病患者では対象物の注視回数の減少と視野領域の狭小化も示唆されている(Daffiner K ら,1992).本研究の対象者は認知機能と眼球運動スピードに負の相関を認めた.認知機能に問題のない者は新規性の高い課題に対しより注意深くなる傾向を示した報告(Crutcher M,ら ,2009)を支持しているものと考える.平均注視時間と生活行為の自立度は有意な正の相関を認めた.生活行為の支援において注視時間にも留意するべきかもしれない.今後は加齢の影響や他の生活場面の課題を含めた視線行動の検討を行う必要がある.