第56回日本作業療法学会

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一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-2] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2

Fri. Sep 16, 2022 3:40 PM - 4:50 PM 第7会場 (RoomD)

座長:生田 純一(農協共済中伊豆リハビリテーションセンター)

[OK-2-3] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 2運動負荷により視空間無視範囲が拡大した半側空間無視を呈した症例

没入型バーチャルリアリティ装置を用いた検討

岡 徳之1平山 美里1新山 真由1大村 優慈2安田 和弘3 (1医療法人社団健育会ねりま健育会病院リハビリテーション部,2医療法人社団健育会ライフサポートねりま,3早稲田大学理工学術院総合研究所(理工学研究所))

【序論】脳卒中後の後遺症の1つである半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect: USN)は,認知課題の反復による疲労で症状が悪化するとされる.また,USNは身体近傍空間(近位空間)よりも身体外空間(遠位空間)で,症状が顕著化する報告がある.しかし,身体活動に伴う疲労の無視空間への影響は明らかではない.USNの評価は,従来より活用されている紙面評価では近位空間に限られるが,没入型バーチャルリアリティー(immersive virtual reality: iVR)を用いた評価では,近位空間と遠位空間の無視空間の定量化が可能である.
【目的】本研究の目的は,身体活動に伴う疲労による無視症状の変化の有無を,iVRを用いて検証することである.
【方法】本研究の約4年半前に右被殻出血,3ヶ月前に左被殻出血を呈した50歳代の男性を対象者に対して,運動負荷前後に,iVRと行動性無視検査(Behavioural inattention test:BIT)の標準検査によるUSN評価と,Borg Scaleを用いた自覚的疲労度の聴取を行った.iVRによる評価は,ヘッドマウントディスプレイを装着した対象者に対して,画面に表示される無機質な球体を視認したか否かの回答を求めるものであり,頚部固定と頚部非固定の2条件の評価を行った.評価実施日には,対象者の前腕に心拍・歩数計を装着し,活動量と心拍数変化を追跡した.評価は,初日,8日後,15日後の計3回実施した.対象者の初回評価時点の心身機能は,左片麻痺と重度感覚障害を認め,Mini-Mental State Examinationは26点,Trail Making TestのPart Aが76秒,Part B が99秒,BITの標準検査の総得点は133点,Catherine Bergego Scaleは主観評価が2点,客観評価が5点であった.​​Functional Independence Measure(FIM)の運動項目は77点,認知項目は33点であり,セルフケアは4点杖歩行にて自立していた.本研究は,当院の倫理委員会で承認され,対象者から書面にて研究参加と学術発表の同意を得た上で実施した(承認番号:倫理-13).
【結果】iVRによる評価において,頚部非固定条件での運動負荷後の無視空間の総和は,初日は4.9増加し,8日後は0.26増加し,15日後は5.14増加した.頚部固定条件での無視空間は,頚部非固定条件より広く,左側の近位から遠位空間で確認され,運動負荷後の無視範囲の総和は,初日は1.9増加し,8日後は1.0減少,15日後は変化なしであった.BITの標準検査の総得点は,運動負荷前よりも運動負荷後に減少した.初日は,133点から118点へと15点減少し,BIT標準検査の下位検査のカットオフ値の合計点である131点を下回った.8日後は,124点から123点へと1点減少した.15日後は,135点から131点へと4点減少した.また,運動負荷中は日中で最多の歩行数と心拍数のピーク値を示し,運動負荷後のBorg Scaleは,運動負荷前よりも2〜6段階増加し,全評価日で13(ややきつい)となった.このことから,運動負荷により疲労が生じたことが確認された.
【結論】iVR装置を用いた計測を通じ,疲労により無視空間が拡大することが確認された.特に,頚部非固定条件でこの傾向が顕著であり,頚部回旋の代償的活動が減少したことが推察された.この結果から,3次元的なUSN症状は,身体活動の疲労度の影響を受けることが明らかになり,自覚的な疲労度合いを考慮して評価を実施する必要性を示唆した.ただし,今回の結果は個人の傾向であり,今後,集団を対象とした検討が求められる.