第56回日本作業療法学会

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一般演題

認知障害(高次脳機能障害を含む)

[OK-3] 一般演題:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3

Sat. Sep 17, 2022 11:20 AM - 12:20 PM 第4会場 (RoomA)

座長:浅野 朝秋(秋田大学大学院)

[OK-3-5] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 3ICTを用いた家屋環境及び家族ニーズの早期多職種共有の有用性

オンライン訪問で安全な在宅生活に繋がった認知症を有する一症例

朝川 弘章1玉村 悠介1牟田 博行1野﨑 園子2錦見 俊雄3 (1わかくさ竜間リハビリテーション病院リハビリテーション部リハビリテーション課,2わかくさ竜間リハビリテーション病院診療部リハビリテーション科,3わかくさ竜間リハビリテーション病院診療部内科)

【はじめに】当院の回復期リハビリテーション病棟(回リハ病棟)では,患者宅へ入院時訪問指導を行う際,通信機器にて病院のパソコンと繋げ,医師やコメディカルに加え患者や家族が参加してリアルタイムで情報共有が出来る「入院時オンライン家屋訪問(オンライン訪問)」を実施している.今回,情報通信技術(ICT)を活用したオンライン訪問により,早期に家屋環境及び家族のニーズの多職種共有が図れ,安全な在宅生活に繋げる事ができた為,報告する.発表に関して,患者と家族に同意は得ている.
【症例紹介】70歳代の女性で,長女と同居していた.併存症に認知症があるがADL自立し家事や庭仕事も行なっていた.自宅にて呂律困難を認め救急搬送され,外傷性くも膜下出血と診断された.第15病日に当院回リハ病棟に入院となる.入院時,著明な運動麻痺は認めず,握力は右13.5kg/左12kgで6分間歩行は270mであったが,理解力や見当識に加え記憶や注意の著明な低下を認め,Mini-Mental State Examination(MMSE)は7/30点でTrail Making Test(TMT)は実施不可であった.常に混乱している様相で,居室やトイレの場所が覚えられずFIMは運動26点/認知15点の計41/126点であり,作業療法介入も困難であった.
【介入】第30病日に,患者宅では長女と作業療法士が参加し,病院では患者と理学療法士と医師が参加する形で,約30分程度のオンライン訪問を実施した.患者は,自宅にいる長女と関わる事で取り繕い反応が減少し,日常生活の記憶が想起できた.長女は,患者と関われた事や医師や療法士との情報共有から,住環境調整案や介護保険の申請など在宅生活に必要な準備の把握に繋がった.療法士や医師は,家屋環境や日常生活の情報に加え,患者から「家事や庭の事があるから帰らないと」との発言や,長女から「やはり母は入院生活より早く家に帰る事が望ましい」といった話の聴取も行えた.得られた情報を基に,回想法や家事動作練習,歩行練習時に花壇を見に行く等の能力・技能を活かした介入が可能となった.並行して家族と在宅生活に必要な準備等について適宜相談も行った.
【結果】第50病日の最終評価では,握力は右14kg/左13kgで6分間歩行は390m,MMSEは10/30でTMTは実施不可,FIMは運動83点/認知23点の 計106/126点となり機能改善を認めた.穏やかに生活できるようになり,院内ADLは修正自立となった.長女も在宅生活に関する準備が完遂できた.第55病日に行った患者・長女・作業療法士・介護支援専門員との退院時訪問にて,在宅生活が安全に実施可能である事が確認できた.患者の能力・技能を活かしたケアプランが立案でき,回リハ病棟在棟40日で自宅退院に至った.
【考察】厚生労働省の認知症施策「新オレンジプラン」では,「認知症の容態に応じた適時適切な医療と介護の提供」「認知症の人の介護者への支援」が提唱されている.今回,入院初期にオンライン訪問を行い情報共有が図れた事で,患者の容態に応じた生活場面と残存能力の評価や治療が行えた.更に家族も入院初期から在宅生活に向けた準備の必要性が認識できた事も,家族の介護負担軽減に繋がり,早期機能回復及び自宅退院の一因になったと考える.コロナ禍等で面会も行えない状況でも,オンライン訪問は家族との情報共有を図るツールとなり,効率的なリハビリテーションに繋がる可能性が示唆された.