[OK-4-1] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4回復期リハビリテーション病棟認知症患者における行動・心理症状への介入すべき対象の選定
【 はじめに 】回復期リハビリテーション病棟(以下,回復期病棟)協会の全国調査では,認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上を有する者の入棟時の割合は,2020年度で43.8%と報告され,年々上昇している.回復期病棟では,成果主義として実績指数が導入され,施策誘導による入院期間の短縮とFunctional Independence Measure(以下,FIM)の向上が求められているが,認知症がFIM利得を阻害することも多数報告されている.
一方,認知症では行動・心理症状(Behavioral and Psychological of Dementia:以下,BPSD)が在宅認知症者の虐待や介護負担感に影響を与え,より問題とされている.回復期病棟では,集団療法による改善が複数報告されているが,個別療法での報告は散見されない.そのため,個別療法においてADLとBPSDのいずれに介入すべきかの判断は,個々の医師や作業療法士に委ねられている現状がある.
本研究の目的は,疾患別でBPSDがFIM向上に及ぼす影響を検討することで,BPSDの改善およびADL向上の観点から,BPSDへの介入を行うべき対象像を明らかにすることである. 本研究は,鵜飼リハビリテーション病院研究倫理審査委員会の承認済である.
【方 法】対象は,2015年12月から2021年9月に当院に入院し退院に至った,佐藤らの報告に基づく操作上の定義で認知症を有する脳血管疾患・運動器疾患とした.脳血管疾患の包含基準は脳出血,脳梗塞の診断で入院した者174名,運動器疾患は大腿骨近位部骨折,脊椎圧迫骨折154名とした.除外基準は,両疾患とも60歳未満,入院30日未満,FIM利得が負の者とし,最終分析対象は脳血管疾患134名,運動器疾患133名とした.
分析手順は,疾患別の入院時BPSDがADL向上に及ぼす影響を検証するために,疾患別で入院中のFIM向上を目的変数とした重回帰分析を実施した.
目的変数は,FIM利得の天井効果を是正するためFIM effectivenessを用い,説明変数には年齢・発症後期間・入院時運動FIM合計点(以下,mFIM)・入院時認知FIM合計点(以下,cFIM)・入院時Body Mass Index (以下,BMI)の5項目(徳永,2020)に,BPSD評価として入院時Neuropsychiatric Inventory in Nursing Home Version(以下,NPI-NH)合計点を加えた計6項目を用いた.統計解析にはExcel統計2015Ⓡを用い,有意水準は5%とした.
【結 果】BPSDの有症率(入院時NPI-NH合計点1点以上)は,脳血管疾患は31%(42名),運動器疾患は27%(36名)であり,それぞれの基本属性は年齢77±8歳と85±7歳,発症後期間23±11日と22±7日,mFIM41±18点と49±14点,cFIM20±7点と23±7点,入院時FIM合計62±24点と73±20点,BMI21±3と19±2であった.
重回帰分析の結果,脳血管疾患は,ADL向上に対し年齢(β=-0.23),入院時NPI-NH合計点(β=-0.18)が阻害因子,入院時mFIM(β=0.28),入院時cFIM(β=0.30)が促進因子として抽出された.運動器疾患は,入院時cFIM(β=0.61)のみが抽出された.修正R2は,脳血管疾患では0.47(p<0.001),運動器疾患で0.37(p<0.001)であった.
【考 察】脳血管疾患は,認知症併存者に限定していない回復期病棟の先行研究(Tokunaga et al,2014)のR2よりも高値であったため,入院時のBPSDへの介入がADL向上の観点からも必要であると考えられる.運動器疾患は,入院時にBPSDを有する股関節骨折患者のmFIM利得が認知機能低下していない群と同程度以上であったと報告(Shibasaki et al,2018)があり,本研究でも対象者を入院時mFIM合計で層別化した場合,入院時BPSDがADL向上に影響する患者層が抽出される可能性は否定できない.
一方,認知症では行動・心理症状(Behavioral and Psychological of Dementia:以下,BPSD)が在宅認知症者の虐待や介護負担感に影響を与え,より問題とされている.回復期病棟では,集団療法による改善が複数報告されているが,個別療法での報告は散見されない.そのため,個別療法においてADLとBPSDのいずれに介入すべきかの判断は,個々の医師や作業療法士に委ねられている現状がある.
本研究の目的は,疾患別でBPSDがFIM向上に及ぼす影響を検討することで,BPSDの改善およびADL向上の観点から,BPSDへの介入を行うべき対象像を明らかにすることである. 本研究は,鵜飼リハビリテーション病院研究倫理審査委員会の承認済である.
【方 法】対象は,2015年12月から2021年9月に当院に入院し退院に至った,佐藤らの報告に基づく操作上の定義で認知症を有する脳血管疾患・運動器疾患とした.脳血管疾患の包含基準は脳出血,脳梗塞の診断で入院した者174名,運動器疾患は大腿骨近位部骨折,脊椎圧迫骨折154名とした.除外基準は,両疾患とも60歳未満,入院30日未満,FIM利得が負の者とし,最終分析対象は脳血管疾患134名,運動器疾患133名とした.
分析手順は,疾患別の入院時BPSDがADL向上に及ぼす影響を検証するために,疾患別で入院中のFIM向上を目的変数とした重回帰分析を実施した.
目的変数は,FIM利得の天井効果を是正するためFIM effectivenessを用い,説明変数には年齢・発症後期間・入院時運動FIM合計点(以下,mFIM)・入院時認知FIM合計点(以下,cFIM)・入院時Body Mass Index (以下,BMI)の5項目(徳永,2020)に,BPSD評価として入院時Neuropsychiatric Inventory in Nursing Home Version(以下,NPI-NH)合計点を加えた計6項目を用いた.統計解析にはExcel統計2015Ⓡを用い,有意水準は5%とした.
【結 果】BPSDの有症率(入院時NPI-NH合計点1点以上)は,脳血管疾患は31%(42名),運動器疾患は27%(36名)であり,それぞれの基本属性は年齢77±8歳と85±7歳,発症後期間23±11日と22±7日,mFIM41±18点と49±14点,cFIM20±7点と23±7点,入院時FIM合計62±24点と73±20点,BMI21±3と19±2であった.
重回帰分析の結果,脳血管疾患は,ADL向上に対し年齢(β=-0.23),入院時NPI-NH合計点(β=-0.18)が阻害因子,入院時mFIM(β=0.28),入院時cFIM(β=0.30)が促進因子として抽出された.運動器疾患は,入院時cFIM(β=0.61)のみが抽出された.修正R2は,脳血管疾患では0.47(p<0.001),運動器疾患で0.37(p<0.001)であった.
【考 察】脳血管疾患は,認知症併存者に限定していない回復期病棟の先行研究(Tokunaga et al,2014)のR2よりも高値であったため,入院時のBPSDへの介入がADL向上の観点からも必要であると考えられる.運動器疾患は,入院時にBPSDを有する股関節骨折患者のmFIM利得が認知機能低下していない群と同程度以上であったと報告(Shibasaki et al,2018)があり,本研究でも対象者を入院時mFIM合計で層別化した場合,入院時BPSDがADL向上に影響する患者層が抽出される可能性は否定できない.