[OK-4-6] 口述発表:認知障害(高次脳機能障害を含む) 4遠隔による在宅生活支援で活動意欲が再起した若年性アルツハイマー病患者の経過に関する報告
【はじめに】
若年発症の認知症者においては,当事者自身が認知症であることを知られたくない理由で積極的なケアサービスの活用に至らないケースも少なくない.本報告では自ら対人交流を閉ざした若年性アルツハイマー病(AD)患者にZoomを使って遠隔による在宅生活支援を行った.症例に認められた言動の変化を主軸にその経過を報告する.尚,発表に関して症例から当院の包括的同意を得ており,個人が特定されないよう概要を損なわない範囲で一部改変している.
【症例紹介】
50代前半の男性.右利き,大卒.妻と中学生の息子の3人暮らし.性格は温厚で個人塾を経営しており地域活動へも積極的に参加していた.人間関係のもつれでストレスが増え, X-3年に自ら病院を受診しうつ病と診断された.X-1年,見当識の低下や車の駐車場所がわからないことに妻が気づき, X年に本院を受診して若年性ADと診断された.介入前のMMSEは23/30, Basic ADLは概ね維持されていたが生活全般は妻の支援が必要であり,妻の介護負担感は高かった.また塾を閉鎖したため日課がなくなり,生徒や近隣住民との付き合いも激減した.診察時の礼節は保たれているが表情に覇気がなく,「この先どうなるのか不安」「認知症だと地域に知られたら,自分が教えてきたことが疑われるのではないか」とも話していた.介護保険の申請は消極的だったが, Zoomによる在宅支援(遠隔リハ)の導入には興味を示した.
【介入と経過】
症例に遠隔リハの一員として,またZoomのセッティングを兼ねて若年性認知症支援コーディネーターを紹介した.遠隔リハは隔週1回1時間,3ヶ月間を目安に聞き取り評価から開始した.症例自身が生い立ちを語る中で,多忙ながらも模型収集や城めぐりなど活動的な趣味を持っていたが,発症後は自宅でTVを観て過ごすことに終始していたことがわかり,「何もすることがない.予定があればいいのに」とこぼした.また,症例は不安になるとすぐに妻を探し呼ぶため,妻は買い物や子どもの部活送迎など最低限の外出しか行えていないことがわかった.そこで,遠隔リハでは前半に症例の趣味分野(お城)をOTに「先生」として講義してもらい,後半は外出を目標に運動プログラムを組むこととした.症例は講義で紹介したいお城の資料準備が日課となり,講義当日は元来の先生としての佇まいで講義を行い,質問にも丁寧に対応する姿勢がみられた.さらに,症例が遠隔リハに慣れてきた辺りから,「散歩に行ってみたい」と外出に関心がみられたため,とある遠隔リハ日に症例とコーディネーターが一緒に遠方のカフェまで散歩し,その道中を病院にいるOTへZoomで中継するプログラムも実施した.症例は歩いている場所を笑顔でOTに紹介しており,目的地に到着した喜びも画面越しに伝えていた.症例の外出中に,妻は2時間程度1人で買い物やお茶に出かける時間ができ,妻も症例の外出を喜んでいた.介入期間終了後は症例から支援継続の希望があったため,介入を通院時の外来作業療法へ移行した.外来受診でも表情は明るく,Zoomで講義した内容を主治医に話すなど,不安を訴えることは減少した.
【考察】
遠隔リハは,症例が人目を気にせずに取り組むことができ, 自ら提案して外出するなど画面越しでも症例の意欲を再起させ,所属感を満たす支援になったと考える.一方, 本報告は遠隔先にコーディネーターを紹介するなど, 補助的な第三者があったため成立した支援でもある.それゆえ,今後は独居の若年性認知症者にも同質の遠隔による在宅支援が可能となるよう,熟考した試行が必要となる.
若年発症の認知症者においては,当事者自身が認知症であることを知られたくない理由で積極的なケアサービスの活用に至らないケースも少なくない.本報告では自ら対人交流を閉ざした若年性アルツハイマー病(AD)患者にZoomを使って遠隔による在宅生活支援を行った.症例に認められた言動の変化を主軸にその経過を報告する.尚,発表に関して症例から当院の包括的同意を得ており,個人が特定されないよう概要を損なわない範囲で一部改変している.
【症例紹介】
50代前半の男性.右利き,大卒.妻と中学生の息子の3人暮らし.性格は温厚で個人塾を経営しており地域活動へも積極的に参加していた.人間関係のもつれでストレスが増え, X-3年に自ら病院を受診しうつ病と診断された.X-1年,見当識の低下や車の駐車場所がわからないことに妻が気づき, X年に本院を受診して若年性ADと診断された.介入前のMMSEは23/30, Basic ADLは概ね維持されていたが生活全般は妻の支援が必要であり,妻の介護負担感は高かった.また塾を閉鎖したため日課がなくなり,生徒や近隣住民との付き合いも激減した.診察時の礼節は保たれているが表情に覇気がなく,「この先どうなるのか不安」「認知症だと地域に知られたら,自分が教えてきたことが疑われるのではないか」とも話していた.介護保険の申請は消極的だったが, Zoomによる在宅支援(遠隔リハ)の導入には興味を示した.
【介入と経過】
症例に遠隔リハの一員として,またZoomのセッティングを兼ねて若年性認知症支援コーディネーターを紹介した.遠隔リハは隔週1回1時間,3ヶ月間を目安に聞き取り評価から開始した.症例自身が生い立ちを語る中で,多忙ながらも模型収集や城めぐりなど活動的な趣味を持っていたが,発症後は自宅でTVを観て過ごすことに終始していたことがわかり,「何もすることがない.予定があればいいのに」とこぼした.また,症例は不安になるとすぐに妻を探し呼ぶため,妻は買い物や子どもの部活送迎など最低限の外出しか行えていないことがわかった.そこで,遠隔リハでは前半に症例の趣味分野(お城)をOTに「先生」として講義してもらい,後半は外出を目標に運動プログラムを組むこととした.症例は講義で紹介したいお城の資料準備が日課となり,講義当日は元来の先生としての佇まいで講義を行い,質問にも丁寧に対応する姿勢がみられた.さらに,症例が遠隔リハに慣れてきた辺りから,「散歩に行ってみたい」と外出に関心がみられたため,とある遠隔リハ日に症例とコーディネーターが一緒に遠方のカフェまで散歩し,その道中を病院にいるOTへZoomで中継するプログラムも実施した.症例は歩いている場所を笑顔でOTに紹介しており,目的地に到着した喜びも画面越しに伝えていた.症例の外出中に,妻は2時間程度1人で買い物やお茶に出かける時間ができ,妻も症例の外出を喜んでいた.介入期間終了後は症例から支援継続の希望があったため,介入を通院時の外来作業療法へ移行した.外来受診でも表情は明るく,Zoomで講義した内容を主治医に話すなど,不安を訴えることは減少した.
【考察】
遠隔リハは,症例が人目を気にせずに取り組むことができ, 自ら提案して外出するなど画面越しでも症例の意欲を再起させ,所属感を満たす支援になったと考える.一方, 本報告は遠隔先にコーディネーターを紹介するなど, 補助的な第三者があったため成立した支援でもある.それゆえ,今後は独居の若年性認知症者にも同質の遠隔による在宅支援が可能となるよう,熟考した試行が必要となる.