[OL-1-1] 口述発表:援助機器 1前腕回内位に着目した介入により食事動作が可能となった不全四肢麻痺を呈した1症例
【はじめに】高位頚髄損傷者における食事動作等の補助は,一般的にポータブルスプリングバランサー(以下,PSB)が用いられている.しかしPSBは前腕の回内外を制御する機能はない為,PSBのみでの使用では食事動作等のADL獲得には困難を伴うことが多い.先行研究では,高位頚髄損傷者にPSBと併用して前腕を任意の回内外角度に保持する前腕回内外位保持装具を製作し,ADLを獲得できた報告を認める.一方,前腕回内外位保持装具は制作時間がかかり,費用的負担も大きく,安易な作成は難しいのが現状である.今回,頚髄損傷患者の食事動作獲得の為,既存の手関節保持装具に簡易なリングを取り付け,PSBのフックに連結した.その事により,前腕を回内位で持続的な保持が可能となり,自己摂取へつながったので,ここに報告する.
【症例紹介】50代後半の男性.診断名は頚髄損傷.当院へは受傷から5年4ヶ月後,脊髄損傷の急性増悪にて入院.demandは食事が出来るようになりたい.評価はAIS運動スコア上肢5/50. MMT(右/左)は上腕二頭筋1/4,上腕三頭筋1/1,手関節背屈筋0/0,MAS肩3,肘2.基本動作・ADLは全介助.移動はチンコントロール式電動車椅子を操作し,移動可能.
【経過】共通目標を「環境設定下で食事の自己摂取が可能」と設定.車椅子座位にて残存筋力が有意な左上肢にPSB,掌側手関節保持装具,万能カフを装着,さらに食事用ターンテーブルを使用し,食事動作練習を開始.PSBを装着し,口へのリーチを試みるも痙性増悪し肘屈曲は90度に留まり,口へのリーチが困難であった.そこでスプーンの柄部分に針金を付けて延長し,口へのリーチが可能となるよう調整を行った.また三角筋の筋力低下の為,PSB装着下でも肩関節外転・代償的前腕回内が困難であり,皿にスプーンを入れる事が課題となった.スプーンを入れる際の回内位をとることが出来れば,食事動作が可能となると考えた.そこで掌側手関節保持装具の尺側にリングを付け,リングの橈尺側から各1本ずつPSBのフックに連結した.尺側はリングを介し,PSBのフックに連結.撓側はPSBのカフを介しフックに連結し,フックまでの距離は尺側が短くなるようにした.リングを回転軸とし,距離を固定した事で,前腕回内位の保持が可能となった.その結果,すくいの開始位置が安定し,食事を8割程度自己摂取することが可能,食事に関する満足度8/10,実行度9/10に至った.
【考察】徳井らは,高位頚髄損傷者がADLを獲得するためには,肩関節外転と,それぞれの動作に適した回内外角度に前腕を保持することが重要な要素であると報告している.当症例は,三角筋の筋力低下の為,PSBを装着下でも肩関節外転や前腕回内位への移行が困難であった.手関節保持装具にリングを取り付け,すくい動作開始時の前腕回内位を保持させたことが,自己摂取へと繋がったものと考えられた.受傷から5年以上経過していた症例であっても,残存機能と環境調整そして食事動作場面での反復練習を繰り返すことで,食事動作が可能となることが示唆された.
当手法は,前腕回内外位保持装具を検討している患者に対しても,費用的負担が少なく,容易に動作確認が可能な点で優れていると思われる.一方,短期間の介入であり,取り付けたリングや手関節保持装具の耐久性の確認が出来ていない.また装具をPSBのフックと連結しており,前腕手掌に装具の圧が偏り,皮膚状況の観察が必要である.これらが注意すべき点かつ課題と思われる.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うに当たり,ヘルシンキ宣言を遵守し,対象には本研究の目的・内容について十分な説明を行い,同意を得た.開示すべき利益相反は無い.
【症例紹介】50代後半の男性.診断名は頚髄損傷.当院へは受傷から5年4ヶ月後,脊髄損傷の急性増悪にて入院.demandは食事が出来るようになりたい.評価はAIS運動スコア上肢5/50. MMT(右/左)は上腕二頭筋1/4,上腕三頭筋1/1,手関節背屈筋0/0,MAS肩3,肘2.基本動作・ADLは全介助.移動はチンコントロール式電動車椅子を操作し,移動可能.
【経過】共通目標を「環境設定下で食事の自己摂取が可能」と設定.車椅子座位にて残存筋力が有意な左上肢にPSB,掌側手関節保持装具,万能カフを装着,さらに食事用ターンテーブルを使用し,食事動作練習を開始.PSBを装着し,口へのリーチを試みるも痙性増悪し肘屈曲は90度に留まり,口へのリーチが困難であった.そこでスプーンの柄部分に針金を付けて延長し,口へのリーチが可能となるよう調整を行った.また三角筋の筋力低下の為,PSB装着下でも肩関節外転・代償的前腕回内が困難であり,皿にスプーンを入れる事が課題となった.スプーンを入れる際の回内位をとることが出来れば,食事動作が可能となると考えた.そこで掌側手関節保持装具の尺側にリングを付け,リングの橈尺側から各1本ずつPSBのフックに連結した.尺側はリングを介し,PSBのフックに連結.撓側はPSBのカフを介しフックに連結し,フックまでの距離は尺側が短くなるようにした.リングを回転軸とし,距離を固定した事で,前腕回内位の保持が可能となった.その結果,すくいの開始位置が安定し,食事を8割程度自己摂取することが可能,食事に関する満足度8/10,実行度9/10に至った.
【考察】徳井らは,高位頚髄損傷者がADLを獲得するためには,肩関節外転と,それぞれの動作に適した回内外角度に前腕を保持することが重要な要素であると報告している.当症例は,三角筋の筋力低下の為,PSBを装着下でも肩関節外転や前腕回内位への移行が困難であった.手関節保持装具にリングを取り付け,すくい動作開始時の前腕回内位を保持させたことが,自己摂取へと繋がったものと考えられた.受傷から5年以上経過していた症例であっても,残存機能と環境調整そして食事動作場面での反復練習を繰り返すことで,食事動作が可能となることが示唆された.
当手法は,前腕回内外位保持装具を検討している患者に対しても,費用的負担が少なく,容易に動作確認が可能な点で優れていると思われる.一方,短期間の介入であり,取り付けたリングや手関節保持装具の耐久性の確認が出来ていない.また装具をPSBのフックと連結しており,前腕手掌に装具の圧が偏り,皮膚状況の観察が必要である.これらが注意すべき点かつ課題と思われる.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うに当たり,ヘルシンキ宣言を遵守し,対象には本研究の目的・内容について十分な説明を行い,同意を得た.開示すべき利益相反は無い.