第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

援助機器

[OL-1] 一般演題:援助機器 1

2022年9月17日(土) 12:30 〜 13:30 第5会場 (RoomB)

座長:上島 健(大阪河崎リハビリテーション大学)

[OL-1-5] 口述発表:援助機器 1補装具の有効な活用方法を促進するための取り組み

車椅子に関する工学的評価手法の研究・開発

米崎 二朗1池田 真紀1 (1大阪市援助技術研究室)

【はじめに】補装具費支給制度により支給される補装具は,支給後に継続して安全に使用するための支援体制が未だ法律的に整備されていないのが現状である.制度においては,各補装具別に耐用年数が設定されているだけで.これは,通常の装着等状態において当該補装具が修理不能となるまでの予想年数が示されたものであり,補装具費の支給を受けた者の作業の種類又は障害の状況等によっては,その実耐用年数には相当の長短が予想されるので,再支給の際には実情に沿うよう十分配慮することとしている.しかし,耐用年数満了時の補装具の再支給に関する判定の指標は具体的なものがないのが現状である.【目的】補装具費支給制度を有効に且つ安全に使用できるようにするためのしくみづくりとして,補装具の工学的評価手法についての研究・開発を行なう.今回は,車椅子についての検討を行った.【方法】国内外の調査として,日本リハビリテーション工学協会の国際連携を通じての北米,欧州における車椅子及び座位保持装置に関する評価基準の情報収集,ドイツのFTBと韓国国立義肢装具・補助器具センター,一般社団法人日本福祉用具評価センター,CECAP株式会社福祉用具総合評価センターにおける福祉用具に関する工学的評価手法に関する視察調査,経済産業省:独立行政法人製品評価技術基盤機構の福祉用具標準化のための評価手法の検討委員会と厚生労働省:座位保持装置完成用部品認定のための工学的評価手法の検討委員会への委員としての参画を通じて,車椅子の工学的評価手法の開発に必要な要素を抽出した.また,厚生労働省の福祉用具ヒヤリハットから,車椅子に関する事故報告事例を収集した.更に,工学的評価を実施するための専門職の役割と機能をまとめるために,電動車いす安全普及協会の示す安全使用のためのガイドライン,車いす安全整備士養成プログラムなどの調査も行った.これらの情報を基に,車椅子の工学的評価項目及び指標を設定し,9例の耐用年数に達した車椅子の補装具判定事例に対し,モニタリング評価を実施した.【結果】モニタリング評価の結果から,工学的評価の項目・方法などを決定し,補装具判定に関わる療法士でも利用できる簡易式検査装置と評価チャートの開発を行った.簡易式検査装置は,車椅子の走行性能に関連する要素に対する工学的評価を行うためのものである.駆動輪の車輪径に応じたスチールローラーの間隔を選択・設定できるようになっており,駆動輪をスチールローラーの上に載せ,キャスターをストッパーで固定する.その前後に,アライメントフレームを設置する.アライメントフレームは,床面に対する車椅子の垂直度を確認するために用いられる.この状態で駆動輪を回転させ,同一位置における車輪の回転性,車軸の安定性,車輪アライメントなどについて評価を行う.さらに,電動車椅子の場合は,連続回転時のモーター音を通じたモータブラシ及び回転軸変異などの異常音の確認も行う.これらの検査結果と本体フレームの構造や剛性との関係性を分析する.評価チャートの工学的評価項目は,駆動輪の回転性能,駆動輪のキャンバー角,駆動輪のトー角,キャスターフォークの回転性能,キャスターの回転性能の5項目である.【考察】補装具判定においては,工学的評価が担えるエンジニアも関わることが望ましいが,そのような自治体は全国でも数か所のみである.また,工学的評価は,医学的な車椅子上の座位姿勢・バランス,操作特性評価と連携して,総合的評価システムとして構築されなければならない.本システムは,エンジニア不在でも,療法士単独で総合評価のできるものとなっている.