第56回日本作業療法学会

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一般演題

MTDLP

[OM-1] 一般演題:MTDLP 1/ 理論 1

Sat. Sep 17, 2022 12:30 PM - 1:30 PM 第4会場 (RoomA)

座長:石川 隆志(秋田大学大学院)

[OM-1-3] 口述発表:MTDLP 1/ 理論 1「自分らしさを取り戻したい」という目標のもと,多職種が連携して,自宅復帰を達成した一例

知本 幸士1 (1旭川赤十字病院)

【初めに】頭蓋咽頭腫除去術後に脳梗塞を発症した症例に対し,多職種が連携して治療に取り組み自宅復帰を達成することが出来た.その経緯を報告する.報告に際して本人より同意を得た.【症例紹介】A氏,60代,女性.公務員として働き40代で子を出産した.子育てをしながら仕事を続け50代で退職した.主婦として家事をこなし,趣味は手芸であった.人と関わることが好きで町内活動やボランティアへの参加があった.現在は夫と二人で暮らし.隣家に90代の母親が住んでおり,A氏が介護の役割を一部担っていた.X日に頭蓋咽頭腫の腫瘍除去術が施行された.X+2日に左側頭葉に脳梗塞が見つかり,翌日よりリハ開始となった.【作業療法評価】意識はJCS10.理解は短文,表出は二語文レベルで,運動性失語があった.リハビリ以外は寝て過ごしており,ADL全般に介助を要していた.運動FIMは37点,認知FIMは16点であった,筋力の低下があり歩行は一部介助レベルであった.TMT-Aは60秒,Bはルールが理解できず中止した.MMSEは22点で見当識と記銘力の低下が目立った.FABは4点であった.術後の後遺症として尿崩症があり,投薬治療と並行して飲水量と尿量の測定をしていた.本人からは「元気になって,自分らしい生活を取り戻したい」という希望が聞かれた.【介入経過】「自分らしさを取り戻すこと」をテーマに,家事,趣味活動,地域活動への復帰を目指す方針とし介入をした.<X+7~21日>難易度が易しい課題や,興味が高い課題から開始した.①ビーズでのブレスレット作成,②A氏の好きなことや趣味,家族などを記載した自己紹介シートの作成,③穴埋め形式での見当識確認を行った.②のシートを看護師などA氏に関わるスタッフに目を通してもらい,病棟内でのコミュニケーションの機会を広げた.並行してPTを主に身体活動,STを主に失語訓練をすすめた.当初は眠気が強く課題の遂行には依存的であった.スタッフとの関わりが増える中で意識障害と失語症状は軽減し,ADLは見守り~自立へと向上した. <X+22~46日>自宅退院に向けた介入を追加した.④家事動作練習,⑤退院後の役割・負担軽減の検討を行い,病棟では看護師と協力しながら水分の管理,服薬管理練習を行った.試験外泊を施行し家事動作の確認をした. 【結果】意識清明,理解・表出は長文レベル,TMT-Aは29秒,Bは74秒,MMSEは30点,FABは15点であった.ADLは自立し運動FIMは79点,認知FIMは31点であった.飲水量と尿量,服薬は自己管理が確立した.退院後の家事は段階的に復帰していくこととし,買い物など外出を伴う際は夫に同伴を依頼した.身の回りの家事が遂行できるようになってから介護や地域活動への参加も再開していく方針とした.本人は「趣味のパッチワークを再開して作品展にも出したい」と意欲的であった.X+47日に自宅退院となった.【考察】A氏は家族や地域のために活躍し,趣味にも熱心な,魅力あふれるひとであった.脳梗塞発症後からA氏の生活は大きく変わり,臥床がちで受動的であった.②の活動は失語の影響で情報発信が苦手となったA氏の人物像を多職種で共有し,同じ目標に向かって協力することに役立ったと思われる.リハ以外の時間でのスタッフとのちょっとした会話や声かけも,良い刺激入力となり,意識障害や失語の回復に大きく貢献したのではないかと考える.A氏は①で作成したブレスレットを退院が決まるまでいつも身につけてくれていた.A氏にとっての「自分らしさ」を表す大切なものになっていたのではないだろうか.A氏が家庭や社会参加に復帰するための自信につながる,価値のあるものになったのではないかと考える.