[ON-1-4] 口述発表:地域 1訪問作業療法における認知症高齢者への支援の効果
~BPSDが緩和し,家族と共に穏やかな生活を取り戻した事例~
【はじめに】今回,BPSDを伴うアルツハイマー型認知症の症例を担当する機会を得た.訪問作業療法によるアプローチと家族との協働により,暴言・暴力により介入困難であった症例と交流が図れるようになり,BPSDの緩和と家族のストレス軽減に繋げることができた.その経過を報告する.尚,今回の報告は家族と当院倫理委員会より承認を得ている.
【症例紹介】90歳代の男性A氏,要介護2.妻と二人暮らし.アリセプト3㎎にて加療中である.妻への暴言・暴力といったBPSDが目立ち,家族のストレスになっている.
【作業療法評価】認知症自立度:Ⅳ,阿部式BPSDスコア:14/44点,CDR-J:2点,Zarit介護負担尺度:40/88点.移動は独歩,ADLは身の回りの動作はほぼ自立である.短期記憶障害,場所・時間の見当識障害あり.
【介入経過】<介入初期>A氏への支援:初回訪問の日「何しに来た,帰れ」と興奮され,介入できなかった.その後も介入できない日が続いたため,しばらくは家族(長男嫁)に同席してもらうこととなった.家族への支援:妻に,A氏がどのような状況で易怒的になるか聴取すると「家族と別の部屋で話をしていると怒鳴ってくる」と聞かれた.また「それさっきも言ったでしょ」といった妻の発言も聞かれ,言い合いになっている場面があった.対応として「A氏が居ない所で大きな声で会話しないこと,プライドを傷つけるような発言は控えること」とアドバイスした.<介入1ヵ月~8ヵ月後>A氏への支援:約1ヶ月後,興奮されることは減ったが,療法士を無視することが度々あった.そこで介入時にA氏の興味関心があることを会話に取り入れ,バリデーション療法を参考に傾聴・共感する姿勢を意識した.また療法士の自己紹介用紙を作成した.約3~6ヵ月後,会話が弾むようになり,自己紹介用紙を見て「この人見たことある」といった発言が聞かれるようになったため家族の同席なしで介入することとなった.また回想法を活用し,郵便局に勤務していた頃や子供の頃の思い出話を取り入れ,昔よく遊ばれていた竹とんぼやコマを提供した.約8ヵ月後,笑顔で会話や作業に取り組まれるようになった.家族への支援:定期的に妻の話を傾聴し,精神的な負担を軽減できるように努めた.
【結果】認知症自立度:Ⅳ,阿部式BPSDスコア:8/44点,CDR-J:2点,Zarit介護負担尺度:31/8>点.A氏のBPSDと家族のストレスは軽減し,家族で穏やかに過ごせるようになった
【考察】今回,初期の段階では介入中止となることが度々あり,交流のきっかけとなった家族の協力は必要不可欠であった.また自己紹介用紙の作成は,療法士を認識できる方法として効果的であった.認知症のBPSDは周囲の環境や出来事,人間関係等が影響して現れる症状といわれている.久松は,BPSDを心理的側面で検討すると,決して特殊な行動・心理状況ではなく我々がもつ心理的状況の延長戦上にあるととらえることが重要であると述べており,A氏のBPSDが生じている原因としてA氏が居ない所での家族の会話が孤独感や不安感を招き,暴言・暴力といった行為に至っているのではないかと考えられた.さらに家族の何気ない発言が本人の易怒性の原因となっている可能性もあったため,妻へ対応法をアドバイスした.また浦上らは,今回活用したバリデーション療法や回想法等の非薬物療法はBPSDの出現予防にも有効であると述べている.傾聴・共感する姿勢がA氏との信頼関係の構築に繋がり,昔の経験や思い出を語り合う中でA氏から笑顔を引き出す事ができるようになった.他者と楽しい時間を共有することでの安心感や充実感が,BPSDを緩和させる要因のひとつになったのではないかと考える.
【症例紹介】90歳代の男性A氏,要介護2.妻と二人暮らし.アリセプト3㎎にて加療中である.妻への暴言・暴力といったBPSDが目立ち,家族のストレスになっている.
【作業療法評価】認知症自立度:Ⅳ,阿部式BPSDスコア:14/44点,CDR-J:2点,Zarit介護負担尺度:40/88点.移動は独歩,ADLは身の回りの動作はほぼ自立である.短期記憶障害,場所・時間の見当識障害あり.
【介入経過】<介入初期>A氏への支援:初回訪問の日「何しに来た,帰れ」と興奮され,介入できなかった.その後も介入できない日が続いたため,しばらくは家族(長男嫁)に同席してもらうこととなった.家族への支援:妻に,A氏がどのような状況で易怒的になるか聴取すると「家族と別の部屋で話をしていると怒鳴ってくる」と聞かれた.また「それさっきも言ったでしょ」といった妻の発言も聞かれ,言い合いになっている場面があった.対応として「A氏が居ない所で大きな声で会話しないこと,プライドを傷つけるような発言は控えること」とアドバイスした.<介入1ヵ月~8ヵ月後>A氏への支援:約1ヶ月後,興奮されることは減ったが,療法士を無視することが度々あった.そこで介入時にA氏の興味関心があることを会話に取り入れ,バリデーション療法を参考に傾聴・共感する姿勢を意識した.また療法士の自己紹介用紙を作成した.約3~6ヵ月後,会話が弾むようになり,自己紹介用紙を見て「この人見たことある」といった発言が聞かれるようになったため家族の同席なしで介入することとなった.また回想法を活用し,郵便局に勤務していた頃や子供の頃の思い出話を取り入れ,昔よく遊ばれていた竹とんぼやコマを提供した.約8ヵ月後,笑顔で会話や作業に取り組まれるようになった.家族への支援:定期的に妻の話を傾聴し,精神的な負担を軽減できるように努めた.
【結果】認知症自立度:Ⅳ,阿部式BPSDスコア:8/44点,CDR-J:2点,Zarit介護負担尺度:31/8>点.A氏のBPSDと家族のストレスは軽減し,家族で穏やかに過ごせるようになった
【考察】今回,初期の段階では介入中止となることが度々あり,交流のきっかけとなった家族の協力は必要不可欠であった.また自己紹介用紙の作成は,療法士を認識できる方法として効果的であった.認知症のBPSDは周囲の環境や出来事,人間関係等が影響して現れる症状といわれている.久松は,BPSDを心理的側面で検討すると,決して特殊な行動・心理状況ではなく我々がもつ心理的状況の延長戦上にあるととらえることが重要であると述べており,A氏のBPSDが生じている原因としてA氏が居ない所での家族の会話が孤独感や不安感を招き,暴言・暴力といった行為に至っているのではないかと考えられた.さらに家族の何気ない発言が本人の易怒性の原因となっている可能性もあったため,妻へ対応法をアドバイスした.また浦上らは,今回活用したバリデーション療法や回想法等の非薬物療法はBPSDの出現予防にも有効であると述べている.傾聴・共感する姿勢がA氏との信頼関係の構築に繋がり,昔の経験や思い出を語り合う中でA氏から笑顔を引き出す事ができるようになった.他者と楽しい時間を共有することでの安心感や充実感が,BPSDを緩和させる要因のひとつになったのではないかと考える.