[ON-3-4] 口述発表:地域 3高齢者にとっての「通いの場」の意味と支え合いの構造
【はじめに】
都市化と核家族化により地域のつながりの希薄化が進んだ我が国では,高齢社会を乗り切るために,住民同士の支え合いを強化する地域づくりが推奨されている.その具体策の一つに「通いの場」の普及促進がある.ここで言う通いの場とは,地域住民が気軽に集える場であり,住民同士の支え合いの観点から,運営の主体が企業や自治体ではなく住民であるものを指す.政府は高齢社会施策として,こうした通いの場の拡充を謳っており,2015年にはリハビリテーション専門職(以下,リハ専門職)の通いの場への関与が制度化された.介護予防領域におけるリハ専門職にはコミュニティの対応力の向上への支援が求められており(大渕修一/2021),通いの場の支援においても,住民同士の支え合いの強化が重要である.しかし,通いの場で見られる支え合いに関する報告についてはほとんどが事例報告であり,支え合いの構造を明らかにすることに焦点を当てた研究は筆者が渉猟した限り見当たらなかった.そこで,本研究の目的を,通いの場に参加することの意味を記述し,高齢者の通いの場での支え合いの構造を明らかにすることとした.
【方法】
高齢者の通いの場において,マイクロエスノグラフィーに基づく参与観察および個別面接を実施し,質的帰納的分析方法にてデータ分析を行なった.調査地は千葉県A市の住宅街にある一軒家を利用した通いの場であり,お教室と呼ばれる趣味などを行う複数の集まりが毎日開催されている.参与観察は月に2〜3回程度の頻度で11ヶ月間,合計27回実施された.研究参加者は通いの場に継続的に参加している6名であり,個別面接を2回実施した.本研究は,東京都立大学荒川キャンパス研究倫理委員会の承認(承認番号21010)を得ており,研究参加者および,通いの場運営団体責任者に,個人情報保護と倫理的配慮について説明し同意を得て実施した.
【結果】
研究参加者は, 68歳から78歳の高齢者6名で,全て女性であった.研究参加者の通いの場に参加することの意味は,6つのテーマ《自分のニーズに適った外出先を求めて行き着いた場である》,《安心できる居場所で,生活の一部となっている》,《自由に出入りできる,程よい距離感の仲間がいる場所》,《通い続けるために重要な人とのつながりがある》,《支え合いが生まれ,生活が豊かになる》,《活動や役割が拡大し,今までとは違う生活になる》で構成された.
【考察】
通いの場には,心の支え,情報を得る,認め合う,参加者同士で面倒をみるなど,社会生活を充足させるための支援であるソーシャルサポートに類似する支え合いがみられた.さらに,参加当初は思ってもいなかった,ボランティア活動や仕事の獲得など,参加者たちの活動や役割が拡大し,その活動や役割がまた通うニーズになっていた.加えて,手伝うことの喜びや充実感から,近所の方への声かけ,お弁当を届けるなど,近隣住民の支援に発展した支え合いの構造がみられた.また,通いの場参加定着者の多くは,複数のお教室や,ボランティアへの参加,通いの場を通して得た仕事を持つなど,通いの場との関わりが深い状態にあり,人とのつながりに価値を持っていた.今までの生活では困っていなかったが,手術をして退院後に助けに来てもらったことや,困っている友人のために,通いの場に出入りする専門家に相談して,アドバイスを受けるなど,通いの場への参加は,困った時に相談すれば,誰かとつないでくれる場所という役割も担っていた.本研究の調査地とした通いの場には,以上の様な人的資本,すなわちソーシャル・キャピタルが醸成され続ける構造がみられた.
都市化と核家族化により地域のつながりの希薄化が進んだ我が国では,高齢社会を乗り切るために,住民同士の支え合いを強化する地域づくりが推奨されている.その具体策の一つに「通いの場」の普及促進がある.ここで言う通いの場とは,地域住民が気軽に集える場であり,住民同士の支え合いの観点から,運営の主体が企業や自治体ではなく住民であるものを指す.政府は高齢社会施策として,こうした通いの場の拡充を謳っており,2015年にはリハビリテーション専門職(以下,リハ専門職)の通いの場への関与が制度化された.介護予防領域におけるリハ専門職にはコミュニティの対応力の向上への支援が求められており(大渕修一/2021),通いの場の支援においても,住民同士の支え合いの強化が重要である.しかし,通いの場で見られる支え合いに関する報告についてはほとんどが事例報告であり,支え合いの構造を明らかにすることに焦点を当てた研究は筆者が渉猟した限り見当たらなかった.そこで,本研究の目的を,通いの場に参加することの意味を記述し,高齢者の通いの場での支え合いの構造を明らかにすることとした.
【方法】
高齢者の通いの場において,マイクロエスノグラフィーに基づく参与観察および個別面接を実施し,質的帰納的分析方法にてデータ分析を行なった.調査地は千葉県A市の住宅街にある一軒家を利用した通いの場であり,お教室と呼ばれる趣味などを行う複数の集まりが毎日開催されている.参与観察は月に2〜3回程度の頻度で11ヶ月間,合計27回実施された.研究参加者は通いの場に継続的に参加している6名であり,個別面接を2回実施した.本研究は,東京都立大学荒川キャンパス研究倫理委員会の承認(承認番号21010)を得ており,研究参加者および,通いの場運営団体責任者に,個人情報保護と倫理的配慮について説明し同意を得て実施した.
【結果】
研究参加者は, 68歳から78歳の高齢者6名で,全て女性であった.研究参加者の通いの場に参加することの意味は,6つのテーマ《自分のニーズに適った外出先を求めて行き着いた場である》,《安心できる居場所で,生活の一部となっている》,《自由に出入りできる,程よい距離感の仲間がいる場所》,《通い続けるために重要な人とのつながりがある》,《支え合いが生まれ,生活が豊かになる》,《活動や役割が拡大し,今までとは違う生活になる》で構成された.
【考察】
通いの場には,心の支え,情報を得る,認め合う,参加者同士で面倒をみるなど,社会生活を充足させるための支援であるソーシャルサポートに類似する支え合いがみられた.さらに,参加当初は思ってもいなかった,ボランティア活動や仕事の獲得など,参加者たちの活動や役割が拡大し,その活動や役割がまた通うニーズになっていた.加えて,手伝うことの喜びや充実感から,近所の方への声かけ,お弁当を届けるなど,近隣住民の支援に発展した支え合いの構造がみられた.また,通いの場参加定着者の多くは,複数のお教室や,ボランティアへの参加,通いの場を通して得た仕事を持つなど,通いの場との関わりが深い状態にあり,人とのつながりに価値を持っていた.今までの生活では困っていなかったが,手術をして退院後に助けに来てもらったことや,困っている友人のために,通いの場に出入りする専門家に相談して,アドバイスを受けるなど,通いの場への参加は,困った時に相談すれば,誰かとつないでくれる場所という役割も担っていた.本研究の調査地とした通いの場には,以上の様な人的資本,すなわちソーシャル・キャピタルが醸成され続ける構造がみられた.