[ON-8-1] 口述発表:地域 8脊髄小脳変性症の高齢者に楽しさプログラムを提供した事例
【はじめに】今回,脊髄小脳変性症(以下,SCD)の高齢者に対して,本家らが開発した楽しさプログラム(本家他,2021)を参照して楽しさを学ぶプログラム(以下,楽しさPG)を実施した.本報告の目的は,楽しさPGによってSCDの高齢女性の失調症状,ADL・IADL,生活満足度指数,生きがいが改善するかを検討することである.なお,本事例には本研究を口頭で説明して書面で同意を得た.
【事例紹介】70歳代女性のA氏は要介護1,夫と二人暮らしでX年にSCDと診断され,X+6年にめまい,ふらつき,四肢失調,構音障害などの症状が現れた.病前は民謡や演歌を歌い,民謡の大会に出ていた.日常生活はADLは自立だが自宅での転倒を繰り返している.
【作業療法評価と計画】本事例は,歩行は両手手引きでワイドベース歩行であった.Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,SARA)は18/40点,老研式活動能力指標は9/13点で,JST版活動能力指標では7/16であった.生活満足度指数は12/13点,生きがい尺度は37/45点と高値であった.Barthel Index(以下,BI):85/100であった.作業療法開始前は運動療法を実施していたが,失調症状の改善は見られなかった.
作業療法は,転倒予防のためにまたぎ動作や歩行練習を10〜20分と,楽しさPGを20〜30分実施した.楽しさPGでは1回目〜11回目は,高齢者版・余暇活動の楽しさ評価法の構成概念である五つの楽しさの特徴を学び,12回目〜17回目はA氏の重要な余暇活動である<民謡の楽しさ>の特徴を学んだ後,A氏が経験した内容を語ってもらった.
【経過】楽しさPGの1回目〜11回目では,<カラオケ>などの余暇活動について語り,関係者への感謝の言葉や気持ちを語っていた.毎回の楽しさPGの感想を自由記入する課題では,約190文字の記載があった.4,5回目の感想は,自身で川柳を書いて筆者を励ましかつ笑いを誘う内容であった.7回目は歩行時に動揺が減少し,A氏は喜んでいた.9回目は自宅でA氏が自ら画用紙を用意して過去・現在・未来の作業歴を書き,通所時に4枚筆者に渡した.
12回目〜17回目では,A氏の語りの中から多く聴取された<民謡>について,<民謡の楽しさ>を実施した.12回目には2ヶ月かけて自宅で編んだレース編みを施設に寄贈し,A氏は「民謡については三日語れる」と体を前のめりにしながら強い感情を表出した.また,塗り絵も興味を示して実施した.そして,民謡を通して様々な経験に対して感謝していた.
【結果】SARAは12/40点(立位,言語障害,指追い試験,指鼻試験が向上),老研式活動能力指標は10/13点(病人を見舞うことができるが向上),生きがい尺度は40/45点改善した.JST版活動能力指標では7/16点,生活満足度指数は12/13点,BIは85/100点と変化はなかった.
【考察】IADL・生きがいが改善したのは過去の楽しさを詳細に思い出し,自身を俯瞰してみることで<恩返しがしたい>や<難病に負けない>という気持ちがより強くなったことが考えられた.
また,失調が改善した理由は断定できないが,先行研究を使用して以下のように推論した.楽しい感情により,モチベーションに関わる側坐核の活動が亢進し一次運動野との機能連関を強めた(西村他,2013).そして,その情報が一次運動野から小脳の下オリーブ核へいき(1980,Thach),さらに下オリーブ核から登上線維へ伝わりプルキンエ細胞に入力されて抑制性の運動の制御(2013,Tanaka et al)が生じて失調の立位,言語障害,上肢の協調運動が改善した可能性があると考えた.したがって,楽しさPGで失調症状や生きがいが改善するかをシングルシステムデザイン等の研究デザインを使用して今後検討行く必要がある.
【事例紹介】70歳代女性のA氏は要介護1,夫と二人暮らしでX年にSCDと診断され,X+6年にめまい,ふらつき,四肢失調,構音障害などの症状が現れた.病前は民謡や演歌を歌い,民謡の大会に出ていた.日常生活はADLは自立だが自宅での転倒を繰り返している.
【作業療法評価と計画】本事例は,歩行は両手手引きでワイドベース歩行であった.Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(以下,SARA)は18/40点,老研式活動能力指標は9/13点で,JST版活動能力指標では7/16であった.生活満足度指数は12/13点,生きがい尺度は37/45点と高値であった.Barthel Index(以下,BI):85/100であった.作業療法開始前は運動療法を実施していたが,失調症状の改善は見られなかった.
作業療法は,転倒予防のためにまたぎ動作や歩行練習を10〜20分と,楽しさPGを20〜30分実施した.楽しさPGでは1回目〜11回目は,高齢者版・余暇活動の楽しさ評価法の構成概念である五つの楽しさの特徴を学び,12回目〜17回目はA氏の重要な余暇活動である<民謡の楽しさ>の特徴を学んだ後,A氏が経験した内容を語ってもらった.
【経過】楽しさPGの1回目〜11回目では,<カラオケ>などの余暇活動について語り,関係者への感謝の言葉や気持ちを語っていた.毎回の楽しさPGの感想を自由記入する課題では,約190文字の記載があった.4,5回目の感想は,自身で川柳を書いて筆者を励ましかつ笑いを誘う内容であった.7回目は歩行時に動揺が減少し,A氏は喜んでいた.9回目は自宅でA氏が自ら画用紙を用意して過去・現在・未来の作業歴を書き,通所時に4枚筆者に渡した.
12回目〜17回目では,A氏の語りの中から多く聴取された<民謡>について,<民謡の楽しさ>を実施した.12回目には2ヶ月かけて自宅で編んだレース編みを施設に寄贈し,A氏は「民謡については三日語れる」と体を前のめりにしながら強い感情を表出した.また,塗り絵も興味を示して実施した.そして,民謡を通して様々な経験に対して感謝していた.
【結果】SARAは12/40点(立位,言語障害,指追い試験,指鼻試験が向上),老研式活動能力指標は10/13点(病人を見舞うことができるが向上),生きがい尺度は40/45点改善した.JST版活動能力指標では7/16点,生活満足度指数は12/13点,BIは85/100点と変化はなかった.
【考察】IADL・生きがいが改善したのは過去の楽しさを詳細に思い出し,自身を俯瞰してみることで<恩返しがしたい>や<難病に負けない>という気持ちがより強くなったことが考えられた.
また,失調が改善した理由は断定できないが,先行研究を使用して以下のように推論した.楽しい感情により,モチベーションに関わる側坐核の活動が亢進し一次運動野との機能連関を強めた(西村他,2013).そして,その情報が一次運動野から小脳の下オリーブ核へいき(1980,Thach),さらに下オリーブ核から登上線維へ伝わりプルキンエ細胞に入力されて抑制性の運動の制御(2013,Tanaka et al)が生じて失調の立位,言語障害,上肢の協調運動が改善した可能性があると考えた.したがって,楽しさPGで失調症状や生きがいが改善するかをシングルシステムデザイン等の研究デザインを使用して今後検討行く必要がある.