第56回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-8] 一般演題:地域 8

Sun. Sep 18, 2022 8:30 AM - 9:30 AM 第5会場 (RoomB)

座長:南 征吾(群馬パース大学)

[ON-8-3] 口述発表:地域 8我が国の高齢者の家庭内役割に関する文献レビュー

加納 裕遵1山口 佳小里2河野 眞3 (1国際医療福祉大学成田病院リハビリテーション技術部,2国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部,3国際医療福祉大学成田保健医療学部作業療法学科)

【序論】
 本邦の地域包括ケアシステムでは地域高齢者の介護予防が重視されており,特に役割を持つことによる活動・参加及びQOLの向上が期待されている.役割は社会的役割と家庭内役割に大別されるが,退職などによって社会的役割が狭小化する高齢者にとって,家庭内役割を考慮することは重要である.しかし我が国における高齢者の家庭内役割の実態に関して,どのような研究がなされ,どのような知見が得られているか明らかでない.
【目的】
 我が国の高齢者の家庭内役割に関する先行的知見を集約することを目的とする.
【方法】
 文献検索は医中誌Web(ver.5)を使用し,2022年2月4日に実施した.全文を対象とし「高齢者」と「家庭内役割(または「家庭内での/における役割」)」をキーワードとしたAND検索を実施し,検索実施日までの全期間を対象として原著論文を検索した.検索された論文のうち「高齢者が対象」,「調査項目に家庭内役割を含む」という条件に合致しない文献は除外した.選定した文献に関して,調査方法,家庭内役割の定義・調査項目,関連指標,分析方法と結果について抽出し分析した.なお,本研究は公開された文献を対象とし,個人情報や著作権に留意して実施した.
【結果】
 検索の結果30件が該当し,このうち11件が条件を満たした.条件に合致しなかったものは,家庭内役割について考察でのみ言及されているものなどであった.該当した11件に関して,調査方法は,アンケート調査4件,インタビュー調査7件であった.家庭内役割の定義の記載があったものは1件のみで,Grossら(1958)の『「社会的位置」,「期待」,「行動」の役割概念に基づいて家庭内で行われる活動』という定義を用いていた.調査項目については,家庭内役割の有無を回答するものが2件,複数の活動を選択肢とし回答を得ているものが6件,自由記載が3件であった.選択肢として提示された活動に関して,「食事の支度」や「掃除」など研究者が独自に設定したものや,高橋ら(2007)による15種類の家庭内役割を網羅的に取り上げたものなどがあり,いずれも家事を中心とした活動がほとんどであった.自由記載の結果としては,「家事」,「買い物」,「庭いじり」などが挙げられた.分析方法に関しては,家庭内役割に関する分析なしが1件(対象者の背景情報としての扱い),家庭内役割の性差を分析したものが1件,家庭内役割を説明変数として統計解析を実施したものが9件で,関連のある効果指標として,身体機能(握力,大腿四頭筋筋力など),ADL,主観的健康観,QOLなどが挙げられた.いずれの指標に関しても,家庭内役割があることによって保護的効果があると報告されていた.家庭内役割をアウトカムとした分析はなかった.
【考察】
 複数の先行研究において,家庭内役割を持つことで健康や生活に何らかの良い影響が得られることが報告されており,介護予防における家庭内役割の重要性が示唆された一方,家庭内役割の有無の要因に関する分析は行われていなかった.また,ほとんどの研究において「家庭内役割」の定義は不明確で,概ねIADLの範囲に限定されていた.
 Grossら(1958)や,望月ら(1997) によると,家庭内役割の成立には「他者からの期待」など遂行者本人の認識が重要とされている.しかしこの点においては,我が国の高齢者の「家庭内役割」の実態は明らかとなっていない.家庭内役割獲得のための支援に資する知見を得るために,家庭内役割の定義ならびに遂行者の認識を含めた家庭内役割の有無の要因に関する研究が必要であると考える.