第56回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-9] 一般演題:地域 9

Sun. Sep 18, 2022 9:40 AM - 10:40 AM 第5会場 (RoomB)

座長:野田 和恵(神戸大学)

[ON-9-2] 口述発表:地域 9コロナ禍で生じた訪問療法士による家屋調査代行からみえた課題と展望

福地 弘文1原 健人1千知岩 伸匡1佐藤 圭祐2尾川 貴洋2 (1ちゅうざん病院リハビリテーション療法部,2ちゅうざん病院臨床教育研究センター)

【はじめに】
当訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)事業所は,当院の回復期リハビリテーション病棟(以下リハ病棟)と併設されており,リハ病棟から自宅退院された患者のフォローアップをする役割がある.しかし,リハ病棟から自宅に退院した患者のうち,訪問リハの利用率は2019年度3.7%,2020年度3.1%と全国平均10.4%¹⁾と比較すると低い状態であった.そのような中,コロナ禍において病棟療法士が家屋調査を実施できない状況が生じた.そこで,病棟療法士に代わり訪問療法士が家屋調査を代行する取り組みを行った.その結果からみえた課題と今後の展望について考察を加え報告する.本研究は当院倫理委員の申請を得ている.
【対象と方法】
 家屋調査代行取組前の2019年度,2020年度にリハ病棟から自宅退院し当院訪問リハを利用した患者(取組前)と,2021年度の家屋調査代行実施後にリハ病棟から自宅復帰し当院訪問リハを利用した患者(取組後)を対象とした.統計解析はEZRを使用し,取り組み前と取り組み後の訪問リハ利用率をFisherの正確確率検定で比較した.有意水準は5%未満とした.
【家屋調査代行取り組みの流れ】
 病棟療法士から家屋調査の依頼を受け,家族と介護支援専門員との日程調整を実施した.また,病棟療法士に問題点や確認点リストの資料作成と,患者の特徴を捉えるための動画の準備を依頼した.家屋調査の前に情報を共有し,家屋調査後に結果報告として改修箇所や福祉用具の導入,退院後のサービスに関する提案やフィードバックを行った.
【結果】
リハ病棟から自宅に退院した患者のうち,当院訪問リハの利用率は取り組み前の2019年度が3.7%,2020年度は3.1%で,取り組み後の2021年度は8%だった.取り組み前(2019年度,2020年度)と取り組み後(2021年度)の比較では,取り組み後の方が有意に訪問リハ利用率が増加していた(P=0.006,P=0.002).
【考察】
 訪問療法士が家屋調査を代行した結果,当院の訪問リハ利用率が有意に増加した.また,訪問療法士から自宅退院後に考えられる問題を掲示し,訪問リハの利用を提案する症例も多く存在した.家屋調査の実施は,改修案や福祉用具の導入,退院後に必要なサービスを適切に提案する知識や経験が必要であり,患者の退院後の生活をしっかりイメージしなければならない.訪問療法士は経験豊かな療法士が多いことに加え,生活の場でリハビリを行っており,在宅生活で生じる問題を認識しやすく訪問リハの必要性を発見しやすいと考えられる.また,当院の病棟療法士の経験年数は1~4年目が約46%を占め,入職後はリハ病棟に配属されるため,経験が浅く改修案や介護保険制度,実際にどのような症例が訪問リハの適応になるのかが不明な点もあり,訪問リハの必要性を発見しにくかったことが考えられる.以上のことから,経験による影響と必要な患者に訪問リハを十分提供できていなかった可能性が示唆された.そのため,訪問療法士が病棟療法士に対して訪問リハの利用や介護保険制度の相談窓口となり,退院移行支援の教育をしていく必要があると考える.今後,通常業務に戻り病棟療法士が家屋調査を行う状況になっても,訪問療法士が改修案や福祉用具の導入,退院後に必要なサービスについて助言できる支援体制を構築していきたい.
【参考資料】
1)平成29年回復期リハビリテーション病棟の現状と課題に関する調査報告書 P44