第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-1] 一般演題:基礎研究 1

2022年9月16日(金) 12:10 〜 13:10 第5会場 (RoomB)

座長:中村 充雄(札幌医科大学)

[OP-1-5] 口述発表:基礎研究 1ヒトの片手グリップ課題に先行する一次運動野と背外側前頭前野間の半球間抑制の変化

小川 明莉1松本 杏美莉1大島 千尋1有賀 理恵子1梁 楠1 (1京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 認知運動機能制御科学研究室)

【はじめに】
ヒトが片手の力生成課題を行う際,対側一次運動野(primary motor cortex; M1)の興奮性が力の大きさに伴って増加する.しかし,意図的な力調整課題に先行する中枢メカニズムはまだ不明である.また,発揮する力の大きさに伴い背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex; DLPFC)の活動が増加することがわかっているが,この活動がM1の興奮性に及ぼす影響は明らかでない.
【目的】
本研究では経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation; TMS)を用いて,片手の自発的な力発揮の準備段階及び運動直前における対側M1の興奮性変化,及び同側DLPFCから対側M1への半球間抑制の変化について調べることを目的とした.
【方法】
本研究は所属する倫理委員会の承認を得て行われ,事前に十分な説明を行い書面にて同意を得た右利きの健常者9名(男性2名;25.5 ± 8.2歳,平均 ± SD)が参加した.被験者は握力計を用いた右手握力の単純反応時間課題を行った.目標とする力の大きさは,はじめに測定した最大随意筋力(maximum voluntary force; MVF)の20, 40, 60, 80 %とした.被験者には音が鳴ったらできるだけ速く,あらかじめ指示された力の大きさで握力計を握るよう指示をした.なお,握る時間は1秒以内とし,得られた力の大きさに関する外的なフィードバックは与えなかった.TMS単発刺激は,右第一背側骨間筋から最も大きな運動誘発電位(motor evoked potential; MEP)が得られる左M1に与えた.TMSのタイミングは,運動開始の合図となる音刺激の前(準備段階,-47.8 ± 25.4ms),あるいは筋活動開始の50 ms前(運動直前)とした.さらに,試験刺激の50 ms前に右DLPFCに条件刺激を与えた.
【結果】
運動準備段階に与えた単発刺激から得られたMEP振幅を比較すると,目標値による主効果があり(P<0.05),20-60 %MVFでは安静時より増加(140, 117, 119 %control),80 %MVFでは減少する傾向にあった(81 %control).条件刺激を与えた際には,単発刺激と比較して安静時MEP振幅が有意に抑制された一方で(86 %control, P<0.05),すべての課題の準備段階でMEP振幅が有意に増大した(114, 177, 195, 174 %control, P<0.05).運動直前に単発刺激を与えた場合のMEP振幅を比較すると,目標値による主効果があり(P<0.05),20,40%は60,80%より小さくなる傾向にあった(181, 172, 215, 220 %control, P<0.05).条件刺激を与えた場合には,安静時はMEPが抑制されたが,すべての運動直前で安静時より有意にMEPが増大した(140, 136,165, 185 %control, P<0.05).
【考察】
本研究の結果より,片手の力発揮の準備段階では特に比較的弱い力を発揮する際に皮質脊髄路の興奮性が大きくなり,運動の直前では比較的強い力を発揮する際に興奮性が増大することが示唆された.さらに,運動準備段階と運動実行直前において,力の大きさに依存して対側のDLPFCからM1への半球間抑制が脱抑制され,これが片手の力生成におけるM1の興奮性の増加に寄与している可能性が示された.