第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-2] 一般演題:基礎研究 2/内科疾患 1

Fri. Sep 16, 2022 3:40 PM - 4:50 PM 第5会場 (RoomB)

座長:東 登志夫(長崎大学)

[OP-2-1] 口述発表:基礎研究 2/内科疾患 1ゴルフスイング速度に対するソフトロボットグローブの効果

~片麻痺手に着目した生体力学的解析~

園田 悠馬1, 寺井 淳1, 佐藤 隆彦2 (1びわこリハビリテーション専門職大学作業療法学科,2びわこリハビリテーション専門職大学理学療法学科)

【序論】リハビリテーション工学の発展によって,脳卒中・片麻痺に対する作業療法に関連した訓練機器や補装具の選択肢が拡張している.また,柔らかい擬人化構造のロボットの開発が進み,手の作業に対するソフトロボットグローブ(SRG)の利用が最近注目されている.さらに,食事動作や書字,製造業における反復動作だけでなく,ゴルフなどのスイングを伴うスポーツにおいてもSRGは有用である可能性がある.しかしながら,片麻痺のゴルファーに焦点を当てたSRGの有用性や有効性に関する研究は見当たらない.本研究では,SRGを用いたゴルフスイングの生体力学的データを示す.
【目的】本研究では,片麻痺患者のSRGを用いたゴルフスイング動作を想定し,健常者を対象に光学反射式三次元動作分析装置を使用してゴルフスイング時の運動パラメータ変化の力学的解析を行うこととした.
【方法】対象は,ゴルフ経験の無い健常者(体の痛みの無い,右利き,40歳前後の男性)2名である.左片麻痺を想定のもと2つの実験で構成され,実験1(①右片手,②両手・素手,③左SRG装着にて各5回のゴルフスイング)と実験2(④左SRG装着,⑤素手にて各15回のゴルフスイング)を順に実施した.また,いずれも測定前に15回のゴルフスイング練習と自覚運動強度(修正Borgスケール)が評価された.ゴルフスイング(7番アイアン)の運動パラメータ測定は,モーションキャプチャーシステム(赤外線カメラ11台)と床反力計(1枚1足)を使用し,マーカーはクラブ(7個)・右母指MP関節(1個)・左右のつま先と踵(4個)に貼付した.主評価項目は,ゴルフスイングのヘッドスピードとした.各パラメータについて非正規分布を仮定してノンパラメトリック手法で群間比較し,有意水準(p)は5%未満とした.なお,本研究は本学研究倫理審査会の承認を受け実施した.
【結果】練習時の連続15回のゴルフスイングによる手の筋疲労感は,SRGの有:無で,実験1の男性Aは修正Borgスケール2:4,実験2の男性Bは修正Borg スケール3:4であった.
[実験1]ヘッドスピード [m/s] の中央値(四分位範囲)は,① 20.0(17.6-20.6),② 23.6(22.9-23.7),③ 26.0(25.4-26.6)で,Kruskal–Wallis検定(p = 0.002)および総当たりのMann–Whitney U 検定(すべてp = 0.008)において有意差を認めた.
[実験2]ヘッドスピードは,④ 24.8(23.7-25.5),⑤ 25.8(25.6-26.5)で,群間で有意差を認めた(p = 0.001).
【考察】本研究はSRGを用いたゴルフに対し,モーションキャプチャー解析を行った最初の研究である.SRGは,欧米では労働場面などで連続的手作業によって起る強い筋疲労や手根管症候群の予防を目的として導入されており,本研究におけるスイングといったスポーツ場面でもSRGの使用によって自覚的運動強度の低減を認めた.
実験1において,片手ではヘッドスピードは有意に遅く,片麻痺患者のゴルフに対し,SRGによる把持力への一定のアシストが有用であることが示唆された.一方,実験1および2ともに,ゴルフスイングの回数を重ねるほどヘッドスピードの向上を認めた.これは,ゴルフ経験の無い健常者においては運動学習パターンの影響が示唆され,SRGの人工筋腱ワイヤーの電動定性的なガイドとフィードバックが運動学習初期に有効である可能性がある.今後,片麻痺患者において,インパクトの巧緻性や飛距離に対して好影響を与えるか調査していく.