第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-2] 一般演題:基礎研究 2/内科疾患 1

2022年9月16日(金) 15:40 〜 16:50 第5会場 (RoomB)

座長:東 登志夫(長崎大学)

[OP-2-6] 口述発表:基礎研究 2/内科疾患 1集中治療室入室患者における早期自宅退院に関連する要因の検討

齋藤 甚12久保寺 宏太2鶴田 かおり23松本 有祐2笠井 史人4 (1昭和大学保健医療学部作業療法学科,2昭和大学病院リハビリテーションセンター,3昭和大学保健医療学部理学療法学科,4昭和大学医学部リハビリテーション医学講座)

【背景】
集中治療室(Intensive Care Unit:以下,ICU)入室患者における作業療法の目的の一つに,「退院後の日常生活機能を早期より予測し日常生活の回復を支援すること」(日本集中治療医学会より)が挙げられており,ICU入室中の重症患者でも先を見越した介入が必要である.しかし,どのような患者がICU退室後に日常生活の獲得に難渋し自宅退院が困難となるか,自宅退院までに長期間を要するかといった特徴は明らかとなっていない.本研究の目的は, ICU入室患者において,ICU退室後の早期自宅退院に関連する要因を明らかにすることである.
【方法】
研究デザインは,ケース・コントロール研究とした.対象は,2020年4月~2021年3月にA病院ICUに48時間以上在室した患者とし,除外基準は,脳血管疾患患者・ICU在室中に死亡した患者とした.変数は,基礎的属性として年齢・性別,患者特性および治療情報として主病名・Charlson Comorbidity Index・ICU入室時のSequential Organ Failure Assessment(以下,SOFA)スコアおよびSOFA各下位項目・手術の有無・人工呼吸器実施日数・薬剤情報・せん妄の有無・入院日数・ICU在室日数・退院時転帰先を収集した.解析は,疾患別リハビリテーション早期加算期限前に自宅退院した患者を「早期自宅退院群」,それ以外を「非早期自宅退院群」と二群に分け,群間における各因子を,Wilcoxonの順位和検定およびFisherの正確検定にて比較検討した.交絡因子の調整には,多重ロジスティック回帰分析を行い,早期自宅退院に関する各変数の影響度を検討した.有意水準は0.05とし,統計解析には,統計ソフトJMP Pro.Ver.16を使用した.倫理的配慮として,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を順守し,所属施設の倫理委員会の承認を受けた上で実施した.
【結果】
100名が分析対象となり,年齢中央値は74歳(63-81),在院日数中央値は38日(24.35-68), ICU在室日数中央値は9日(5-15)であり,早期自宅退院群は35名(35%)であった.二群間の比較では,SOFAスコア(p<.01),SOFA下位項目循環器(p=.02)・中枢神経(p=.02),人工呼吸器日数(p=.02),せん妄の有無(p<.01)において有意差を認めた.多重ロジスティック回帰分析では,目的変数に早期自宅退院の有無,説明変数にSOFAスコア・人工呼吸器日数・せん妄の有無を投入するモデルを採用し,SOFAスコア(OR=1.21,95%CI=1.04-1.41),せん妄の有無(OR=4.76,95%CI=1.44-15.75)が有意に影響していた.
【結論】
 ICU入室時の重症度が高い患者やせん妄が認められる患者は,その後の日常生活の獲得に難渋し,早期自宅退院が困難となることが示唆された.重症度の高い患者は,疾患や全身状態の改善自体に時間を要すること,二次的な身体・認知機能の低下や日常生活動作能力の低下を生じやすいことが考えられる.早期の自宅退院が困難と予測される患者は,介入早期より在宅の情報収集やサービスの調整,転帰先の検討が望ましいと考えられる.