第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-3] 一般演題:基礎研究 3

Sat. Sep 17, 2022 9:00 AM - 10:00 AM 第6会場 (RoomB-1)

座長:金子 翔拓(北海道文教大学)

[OP-3-3] 口述発表:基礎研究 3リストバンド型活動量計と自己報告による睡眠時間の測定精度の検討

佐野 伸之1中薗 寿人1
(1福岡国際医療福祉大学医療学部作業療法学科)

【はじめに】リハビリテーション(以下,リハ)の対象者の活動量や生活リズムを評価することはリハの支援計画や介入効果を提示する上で重要な指標となる(Garberら 2011).それらの指標を正確に簡便に収集するために活動量計(以下,AT)が用いられるようになっている(Evensonら2015).また,着け忘れの解消や使いやすさを考慮し,耐水で小型のリストバンド型ATの使用が増加し,特に入浴や睡眠時も着用したまま過ごせることが利点となる(Alleyら 2016).睡眠時間に代表される生活リズムの把握を自己報告式に実施するには,対象者が日々記録を行うための意識付けや認知機能が必要となり,継続的に正確な睡眠時間を得ることは困難となるため,リストバンド型ATの活用が期待される.
【目的】生活リズムを捉える指標である睡眠時間に対して,リストバンド型ATから推定される睡眠時間と自己報告による睡眠時間との一致度について検証する.
【方法】対象者は,健康成人の男女各10名の計20名(平均37.5±7.8歳)であり,書面にて同意を得た上で実施した.対象者には利き手(右側18名)にリストバンド型AT(FitBit社製;以下,FBAT)を常時着用(入浴時を含める)してもらい,5日間以上の着用期間を経て回収した.FBATは手首の動きに基づくアルゴリズムによって入眠時間から起床時間までを捉え,睡眠時間が推定される.自己報告の睡眠時間は,対象者本人に入眠時間と起床時間を毎日記録してもらうことで睡眠時間を算出した.着用開始の1日目と回収基準の5日目以降のデータを除く3日間分のデータを分析対象とした.
 分析では,FBATと自己報告の2つの方法による睡眠時間について,固定誤差と系統誤差が生じていないかを確認するため,Bland-Altman分析を実施した.両方法の睡眠時間の平均値と誤差から固定誤差の有無を確認し,誤差を目的変数にして平均値を説明変数とした回帰分析の標準化係数(傾き)の有意差から系統誤差の有無を確認した.さらに,両方法の睡眠時間に対して,ピアソンの相関分析を用いて相関係数を確認した.相関の強さは,0.25以上0.5未満で弱い,0.5以上0.75未満で中等度,0.75以上で強いという基準で判断した(Tomita 2006).分析には全てHAD17を用いた.
 本研究は大学倫理審査委員会の承認と対象者の書面での同意を得た.また,科研費の助成(JP20K19301)を受け,その他の開示すべき利益相反関係はない.
【結果】着用中の機器トラブルや離脱者による欠損値はなく,全対象者から3日分の計60日分のデータが得られた.自己報告による睡眠時間は413.4±87.2分間,FBATによる睡眠時間は414.9±94.6分間であった.Bland-Altman分析の結果,両方法の睡眠時間に関する誤差(自己報告-FBAT)は1.4±34.7分であり,平均値±2標準偏差が0をまたぐ(95%信頼区間[-68.1-70.9])ため,固定誤差はなかった.また,回帰分析では平均誤差の切片-33.6(95%信頼区間[-75.8-8.7],p=0.12)で,傾き0.1(95%信頼区間[-0.02-0.18,p=0.10)のため,系統誤差はなかったささらに,両方法の相関係数は0.93(95%信頼区間[0.89-0.96],p<0.01)で強い相関を認めた.
【考察】本研究ではリストバンド型ATでの推定と自己報告による睡眠時間との一致度について検証し,両方法によって得られた睡眠時間は非常に類似した数値となり,同質の測定精度が担保されることが明らかとなった.そのため,自覚できる睡眠時間に対して意識的努力や適切な認知機能を要する限定されたリハ対象者以外にも,簡便で客観的な評価を行え,生活リズムなどへの支援計画や介入効果を検討する際の指標として活用することが期待される.