第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-3] 一般演題:基礎研究 3

2022年9月17日(土) 09:00 〜 10:00 第6会場 (RoomB-1)

座長:金子 翔拓(北海道文教大学)

[OP-3-4] 口述発表:基礎研究 3脳卒中片麻痺患者の手指開閉運動から筋緊張を推定するアプリケーション開発の予備的研究

斎藤 剛史12榎並 歩実2渋井 彩友美2吉村 翔2濱口 豊太1 (1埼玉県立大学大学院,2東京歯科大学市川総合病院リハビリテーション科)

【序論】近年,世界的に遠隔医療の整備が進み,海外では動画や音声を使って患者のリハビリテーションを支援する事例が増えている.我々は現在までに小型赤外線2眼カメラを用いた三次元動作解析システム手指機能評価装置:Fahrenheit (特許 第6375328号) を開発した.Fahrenheitは60fpsの時間分解で手指の運動を0から1の相対値として定量化させ,運動の変化を記録することができる.このシステムは将来的に治療の効果判定だけでなく,手指の機能回復予測がおこなえるツールとして,またPCに取り込まれたデータから遠隔医療を行う際の一助となる可能性がある.現在まで,手指開閉運動のデータを機械学習させたことで運動麻痺の重症度を自動判別できる機能を有したが,記録された画像だけでは患者の筋緊張を推定することができなかった.本研究は,脳卒中患者の手指運動麻痺を評価するFahrenheitの機能に,筋緊張を推定する機能を追加するための予備的研究である.
【目的】手指開閉運動の開始時と終了時の手指屈曲および伸展の変動値に,前腕屈筋と伸筋の筋硬度が関連するか検証し,関節角度変化から筋硬度の推定式を求めた.
【方法】対象は2021年12月から当院脳卒中センターに入院した急性期脳卒中患者のうち,研究への同意が得られた者とした.被験者は6名 (男性6名,平均年齢60歳,右利き6名) であった.Fahrenheitの測定肢位は,椅子座位または車椅子座位とし,上肢を下垂させ肘関節90°屈曲,前腕回内位とした.Fahrenheitで用いる小型赤外線カメラは,非接触ハンドトラッキングセンサ・Leap Motion Controller (Ultra Leap社製) を使用し,手掌面から20㎝下方に配置された.Fahrenheitで測定した手指開閉運動は,20秒間に可能な限り素早く,手指を大きく開くこと,強く握ることの反復とした.筋硬度は,前腕2か所: 尺側手根屈筋 (FCU) ,長橈側手根伸筋 (ECRL) の筋腹にマーキングシールを貼付し,20秒間の手指開閉運動の施行前後に前腕中間位で計測した.測定は筋硬度計 (PEK-1) を用いて各筋に対し5回計測し,最大および最小の値を除いた3回の平均値を用いた.解析は,FCUとECRLから計測した運動前後の筋硬度を従属変数とし,Fahrenheitの変動値を独立変数とし,年齢,性別,麻痺の有無,利き手を共変量として回帰分析をおこなった.本研究は当院倫理審査委員会と研究機関に倫理承認され,文科省科学研究費助成金研究 (基盤C) の採択を受けた.
【結果】手指開閉運動の前後で測定したFCUの筋硬度は,初回屈曲/最終屈曲の変動値 (R=.563,P<.001/R=.596,P<.001) と有意な相関を認めた.また手指開閉運動の前後で測定したECRLの筋硬度も初回伸展/最終伸展の変動値 (R=.293,P<.001/R=.653,P<.001) と相関を認め,筋硬度を予測する回帰モデル式が得られた.例として,FCUの筋硬度=(-3.93×1回目の手指屈曲時の角度変化値)+(-0.19×年齢)+(2.55×麻痺の有無;1, 0)+51.31と算出された (R2=.316,AIC= 2984) .
【考察】急性期脳卒中患者に対し,20秒間の開閉運動をFahrenheitで測定した際の手指屈曲および伸展の変動値と,運動前後の筋硬度が相関を認め,FCUとECRLの筋硬度推定式を得た.Fahrenheitで測定した手指開閉運動時の連続データを用いることで,運動麻痺の重症度と,その時の麻痺側前腕屈筋および伸筋群の筋緊張が推測できる.しかし,本研究では対象者の筋肉量を推定する体重と身長などのリアルデータをなどは使用しておらず,サンプル数は少なかった.さらに予測精度を高めるための実証を要する.