[OP-3-5] 口述発表:基礎研究 3Goal-directed reachが運動準備期及び運動開始時おける上肢近位筋の皮質脊髄路の興奮性に与える影響
【はじめに】
Goal-directed reachは,運動の到達目標地点に物体を設定しリーチ動作に文脈を持たせることで運動パフォーマンスを向上させることが報告されている. しかし中枢神経系において,リーチ動作における課題条件の違いが皮質脊髄路の興奮性変化に与える影響については明らかではない. また上肢近位筋の複合的な働きが求められるリーチ動作において,それらの相互作用における脳活動を時系変化に応じて検証した報告は少ない.
【目的】
本研究では,経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation; TMS)を用いてGoaldirected reachが運動準備期と運動開始時における上肢近位筋の皮質脊髄路の興奮性に与える影響を明らかにする.
【方法】
本研究は所属する倫理委員会の承認を得て行われ,事前に十分な説明を行い書面にて同意を得た右利きの健常成人7名(男性2名; 年齢30.5 ± 9.0歳,平均 ± SD)とした. 被験者は椅子座位にてテーブルホッケー様の車輪付きボードに右手掌を固定し,右上肢リーチ運動を全て単純反応時間課題で行なった. 上肢開始肢位は肩関節中間位,肘関節90°屈曲,前腕回内位とした. Goal-directed reach課題は2種類設定し,音の合図で開始肢位前方200 mmにあるボール(直径40 mm,重さ2.7g)を開始肢位前方1500 mmにあるゴール(高さ120 mm,幅90 mm,奥行50 mm)に入れる課題(Aim for the goal)と,ゴールなしで同ボールを打つように右上肢をリーチする課題(Aim for the ball)とした.Non-goal-directed reach課題はゴールやボールがない状態で右上肢をリーチするように指示した(Aimless). 3課題順序はランダムに実施した.TMSは音の合図時(運動準備期),あるいは筋活動開始の70 ms前(運動開始時)に左一次運動野に与え,表面筋電図で右上腕二頭筋(biceps brachii muscle;BB)および右上腕三頭筋(triceps brachii muscle;TB)から運動誘発電位(motor evoked potential;MEP)を記録し,皮質脊髄路の興奮性を評価する指標とした.
【結果】
BBについて,全課題において運動準備期および運動開始時で安静時と比べてMEP振幅値が増大しており,運動準備期ではAim for the goal条件,運動開始時ではAim for the ball条件においてMEP振幅値の増大量が多い傾向にあった.一方,TBについては全課題において運動準備期,運動開始時ともに安静時と比べてMEP振幅値が増大傾向にあったが,課題間では有意差は認めなかった.
【考察】
本研究結果より,BBにおいては運動準備期および運動開始時ともにGoal-directed reach課題がNongoal directed reach課題より皮質脊髄路の興奮性が高まる傾向にあり,Goal-directed reach遂行時にフィードフォワード性運動調節に関与している可能性が示唆された.リーチ動作の文脈の違いが脳活動に与える影響について明らかにすることで,より効果的な治療への寄与が期待される.
Goal-directed reachは,運動の到達目標地点に物体を設定しリーチ動作に文脈を持たせることで運動パフォーマンスを向上させることが報告されている. しかし中枢神経系において,リーチ動作における課題条件の違いが皮質脊髄路の興奮性変化に与える影響については明らかではない. また上肢近位筋の複合的な働きが求められるリーチ動作において,それらの相互作用における脳活動を時系変化に応じて検証した報告は少ない.
【目的】
本研究では,経頭蓋磁気刺激法(transcranial magnetic stimulation; TMS)を用いてGoaldirected reachが運動準備期と運動開始時における上肢近位筋の皮質脊髄路の興奮性に与える影響を明らかにする.
【方法】
本研究は所属する倫理委員会の承認を得て行われ,事前に十分な説明を行い書面にて同意を得た右利きの健常成人7名(男性2名; 年齢30.5 ± 9.0歳,平均 ± SD)とした. 被験者は椅子座位にてテーブルホッケー様の車輪付きボードに右手掌を固定し,右上肢リーチ運動を全て単純反応時間課題で行なった. 上肢開始肢位は肩関節中間位,肘関節90°屈曲,前腕回内位とした. Goal-directed reach課題は2種類設定し,音の合図で開始肢位前方200 mmにあるボール(直径40 mm,重さ2.7g)を開始肢位前方1500 mmにあるゴール(高さ120 mm,幅90 mm,奥行50 mm)に入れる課題(Aim for the goal)と,ゴールなしで同ボールを打つように右上肢をリーチする課題(Aim for the ball)とした.Non-goal-directed reach課題はゴールやボールがない状態で右上肢をリーチするように指示した(Aimless). 3課題順序はランダムに実施した.TMSは音の合図時(運動準備期),あるいは筋活動開始の70 ms前(運動開始時)に左一次運動野に与え,表面筋電図で右上腕二頭筋(biceps brachii muscle;BB)および右上腕三頭筋(triceps brachii muscle;TB)から運動誘発電位(motor evoked potential;MEP)を記録し,皮質脊髄路の興奮性を評価する指標とした.
【結果】
BBについて,全課題において運動準備期および運動開始時で安静時と比べてMEP振幅値が増大しており,運動準備期ではAim for the goal条件,運動開始時ではAim for the ball条件においてMEP振幅値の増大量が多い傾向にあった.一方,TBについては全課題において運動準備期,運動開始時ともに安静時と比べてMEP振幅値が増大傾向にあったが,課題間では有意差は認めなかった.
【考察】
本研究結果より,BBにおいては運動準備期および運動開始時ともにGoal-directed reach課題がNongoal directed reach課題より皮質脊髄路の興奮性が高まる傾向にあり,Goal-directed reach遂行時にフィードフォワード性運動調節に関与している可能性が示唆された.リーチ動作の文脈の違いが脳活動に与える影響について明らかにすることで,より効果的な治療への寄与が期待される.