第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-4] 一般演題:基礎研究 4

Sat. Sep 17, 2022 10:10 AM - 11:10 AM 第6会場 (RoomB-1)

座長:平川 裕一(弘前大学大学院)

[OP-4-1] 口述発表:基礎研究 4健常成人における自閉スペクトラム傾向と言葉の理解に伴う運動促進効果に関する研究

入江 啓輔1松本 杏美莉1小川 明莉1大島 千尋1梁 楠1 (1京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 認知運動機能制御科学研究室)

【はじめに】
運動をファシリテーションする方法として言葉によるインストラクションがある.動詞を理解するときに,動作に関連する身体部位の感覚運動領域が活性化し,身体反応が促進される効果をActionsentence Compatibility Effect (ACE)という.我々は健常成人において動作の速度に関連する副詞や擬態語によってもACEを確認した.近年,健常成人の中でも,自閉スペクトラム(AutismSpectrum: AS)傾向の違いにより共同注意や表情認知等の様々な認知的側面に差異が生じることが報告されている.しかしながら,AS傾向が動作に関連する言葉の理解やACEに及ぼす影響は明らかになっていない.
【目的】
本研究の目的は,健常成人におけるAS傾向の違いが,副詞や擬態語によって生じるACEに及ぼす影響を検討することである.
【方法】
本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て,事前に十分な説明を行い文書にて同意を得られた健常成人70名(男性47名,女性23名,平均年齢21.4±1.2歳)を対象とした.まず,対象者全員にAutism Quotient(AQ)を実施し,中央値を用いてAS傾向の低いLow AQ群とAS傾向の高いHighAQ群に分けた.行動実験では,手と手以外それぞれに関連する行為を表現する文章を20文ずつ用意した.この行為文に“ゆっくり”,“すばやく”という動作の速度に関する用語を加えた80文 (PartA),同様に“さっと”,“はやく”という用語を加えた80文 (Part B)を用いた.さらにフィラー文として不自然な文を20文ずつ用意した.行為文とフィラー文がランダムに呈示され,提示された文章が正しく理解できた場合にのみ,右手でボタンを押すGo/No-Go課題とした.反応時間と正誤数を記録し,手と手以外のそれぞれについて,言葉とAQの要因に対して二元配置分散分析を実施した.統計解析はSPSS ver26を用い,有意水準を5%未満とした.
【結果】
Part Aの反応時間に対する二元配置分散分析の結果,交互作用(言葉×AQ)が有意であった(F=55.8,p<.05).多重比較検定では, Low AQ群でのみ“手×すばやく”が,“手×ゆっくり”よりも有意に反応時間が早かった(p<.05).誤答数では言葉による主効果が認められ(F=48.1,p<.05),手に関連する言葉において,“すばやく”は“ゆっくり”よりも有意に誤答数が増加した(p<.05).Part Bでも,反応時間にて交互作用が有意であった(F=64.9,p<.05).多重比較検定では, LowAQ群でのみ“手×さっと”が,“手×はやく”よりも有意に反応時間が早かった(p<.05).誤答数では言葉による主効果が認められ(F=7.8,p<.05),手に関連する言葉において“はやく”は“さっと”よりも有意に誤答数が増加した(p<.05).Part A,Bに共通して,全ての課題でHigh AQ群がLowAQ群よりも有意に反応時間が早かった(p<.05).
【考察】
本研究では,Low AQ群においてのみACEが再認された.ASD児者は正しい文章の理解が可能でも,比喩表現のような抽象的な言葉の理解に問題がある.今回,High AQ群においてACEが生じなかった要因として,AS傾向の強さによる副詞や擬態語の理解の困難さによるものと考えられた.また,High AQ群がLow AQ群よりも反応時間が早く,誤答数には差がないことから,High AQ群では異なる認知戦略を用いている可能性が考えられた.