第56回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OP-5] 一般演題:基礎研究 5

2022年9月17日(土) 11:20 〜 12:20 第6会場 (RoomB-1)

座長:上谷 英史(弘前大学大学院)

[OP-5-1] 口述発表:基礎研究 5手工芸が健常成人の脳活動に及ぼす効果

~実行機能の個人差に着目したfNIRS研究~

岩崎 智子12大西 久男2山形 力生1中田 修1 (1奈良学園大学保健医療学部リハビリテーション学科,2大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

【緒言】作業療法では治療の手段として様々な手工芸を用いる.しかしながら,手工芸の認知的効果についての報告は少なく,脳機能の視点から科学的検証をすることが求められている.認知機能の中でも,実行機能は,日常生活の課題遂行に不可欠であるとされており,背外側前頭前野(DLPFC)が決定的な役割を果たしている.筆者らは,これまでに手工芸活動遂行時の脳賦活について,実行機能及びDLPFCとの関連を検討し,いくつかの示唆を得ている.本研究の目的は,手工芸(紙細工)活動を用い,課題遂行時の大脳半球前頭部の酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOxy-Hb)を近赤外分光法(NIRS)により計測し,実行機能の個人差と脳賦活について検討することである.また対象者の基本情報との関連も検討する.
【方法】本研究は各所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した.対象は46歳以上の健常成人44名男女で,紙細工活動であるペーパーブロックとロールピクチャーを用いた.各活動の実験課題は,「パーツ作成課題」と「構成課題」とし,対照課題は,用紙を無目的に「折る-開く」動作とした.対照課題,パーツ作成課題,構成課題の順に, task とrest 各60秒を5試行繰り返すブロックデザインで行い,OEG-SpO2(Spectratech社)で計測した.関心領域は左右のDLPFC,内側前頭極(内側FP)の3領域とした.解析対象はΔoxy-Hbで,前処理の後加算平均した.実行機能検査結果で分けた2群(Low群・High群)について,各活動の課題毎に3領域の分散分析を実施し,併せて対象者の基本情報との関連について相関を求めた.有意水準はいずれも5%とした.
【結果】対象者は,Low群20名,High群24名で,平均年齢に有意差を認めた(Low群>High群).Δoxy-Hbの総量を比較した分析の結果,両活動とも,Low群>High群となった.各群で,課題毎に3領域の脳賦活を分析した結果,Low群ではペーパーブロックの構成課題のみに右DLPFC≒左DLPFC>内側FPを認め,その他の課題では有意差を認めなかった.一方,High群では,ペーパーブロックの3課題とも右DLPFC>内側FPで,ロールピクチャーの3課題とも右DLPFC≒左DLPFC>内側FPであった.基本情報と脳賦活との相関分析では,「紙細工経験品目数」「構成作品経験」「趣味(手工芸)」とDLPFCに有意な負の相関を認めた.
【考察】脳賦活反応性の違いについて,難易度が低い課題では,同じ課題を遂行した際に,高齢になるほど神経資源を多く動員する必要があるため,脳賦活が高くなるとされている(Daniel et al.,2013).今回の両活動においても,2群間には年齢差があったことからHigh群よりもLow群で脳賦活が高くなったと考えられた. 脳領域の選択的使用について,認知課題の遂行時には,高齢になるほど選択的なネットワークの活性化が困難になり,両半球や別の領域を動員する必要が生じるが,若年層では部分的な脳活動(片側)で課題遂行可能であることが指摘されている(Schneider-Garces et al.,2010).このことから,Low群では,選択的な使用ができず3領域にわたって賦活し,High群ではDLPFCを選択的に使用することが可能であったと考えた.また,High群ではペーパーブロックにおいて,右DLPFCの賦活が高かったことが特徴的であり,視空間的処理の要素が影響したと考えた.基本情報と脳賦活について,紙細工経験が豊富な人は, DLPFCにおいて少ない脳賦活で課題を遂行している側面があると考えられた.以上により,紙細工活動を治療として選択する際には,個人の実行機能に適した活動を選択することや,活動の経験を考量し検討することで,より効果的な治療として活用できる可能性があると考えた.