第56回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

基礎研究

[OP-6] 一般演題:基礎研究 6/援助機器 3

Sat. Sep 17, 2022 3:10 PM - 4:20 PM 第8会場 (RoomE)

座長:務台 均(信州大学)

[OP-6-3] 口述発表:基礎研究 6/援助機器 3色の先行知識がGo/No-go課題の反応時間に及ぼす影響は視覚モダリティの違いに依存する

堀之内 峻之1松本 卓也12伊藤 佳奈実1渡邊 龍憲1桐本 光1 (1広島大学大学院 医系科学研究科 感覚運動神経科学教室,2日本学術振興会 特別研究員)

【背景】Go/No-go課題における反応時間(RT: Reaction time)は,視覚刺激に用いられる色が含有する先行知識に影響を受ける.発光ダイオード(LED: Light-emitting diode)で視覚刺激を提示したGo/No-go課題では,青刺激でボタンを押し赤刺激では反応しない「青Go/赤No-go課題」と比較して,反対の「赤Go/青No-go課題」ではRTが遅延し,事象関連電位の振幅が増大する(Kubo, Kirimoto et al, 2021).信号機における青は「進んでもよい」,赤は「止まれ」と国際的に共通のルールとして定められており,ストループ効果のように,色の先行知識と提示された色の持つ意味の相違がRTの遅延に関与していると考えられている.一方,近年ドライビングシミュレータなどのヴァーチャルリアリティ映像のリハビリテーション応用は広く浸透している.しかし,ドライビングシミュレータにおけるモニタ画面のように,次元や質感などの視覚モダリティが実際の信号機と異なる場合でも,色の先行知識がRTへ影響を及ぼすか否かについては明らかになっていない.
【目的】本研究では,Go/No-go課題で提示する色とその先行知識の相違で生じるRTの遅延は,視覚刺激のモダリティに影響を受けるか否かについて検討した.
【方法】右利き健常成人15名(女性7名,平均年齢22.2 ± 2.5歳)が研究に参加し,青色単純反応課題,赤色単純反応課題,青Go/赤No-go課題,赤Go/青No-go課題の4つの反応課題をランダムな順序で行った.各課題の視覚刺激は,LEDライト(Light条件)及び液晶モニタ(Monitor条件)で提示された.単純反応課題では,青刺激または赤刺激が各100回提示され,参加者は刺激に対して出来るだけ素早く右手のボタンを押下した.Go/No-go課題では,ランダムに30回のGo刺激及び70回のNo-go刺激が提示(合計100回,Go確率30%)され,参加者はNo-go刺激には反応せず,Go刺激に対して出来るだけ素早く右手のボタンを押下した.刺激提示からボタンを押下するまでの時間をRTとし,平均RTを各課題で比較した.研究内容はヘルシンキ宣言に則りデザインされ,実施には所属する機関の倫理審査委員会の承認を得た(第C-242号).研究参加者は研究内容に関する十分な説明を受け,書面にて参加に同意した.
【結果】単純反応課題では,青刺激時と赤刺激時のRTに有意な違いは生じなかった.Go/No-go課題では,Light条件で青Go/赤No-go課題時と比較して赤Go/青No-go課題時に有意にRTが延長した(p < 0.05).一方Monitor条件では,青Go/赤No-go課題と赤Go/青No-go課題時のRTに有意な違いは生じなかった.
【考察】本研究は,視覚モダリティの違いによって,RTに色の先行知識が及ぼす影響に違いが生じることを明らかにした.物体認識が行われる下側頭皮質では二次元情報よりも三次元情報を選択的に知覚し(Janssen et al, 2000),後頭頂皮質に送られた奥行きなどの視覚情報が側頭葉に送られていること(Van Dromme et al, 2016)から,次元や奥行き情報が物体の認知,知覚過程に影響を与えると考えられている.本研究では,液晶モニタに提示された二次元情報の刺激色は,LEDライトと比較して信号機や交通ルールが想起されにくく,色の先行知識と提示された色の持つ意味の相違が生じなかった可能性がある.リハビリテーション場面でも,ディスプレイを使用した環境における評価や介入時には,現実世界とは視覚情報に対する認知処理過程に違いが生じる可能性について考慮する必要があるかもしれない.