第56回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-6] 一般演題:基礎研究 6/援助機器 3

Sat. Sep 17, 2022 3:10 PM - 4:20 PM 第8会場 (RoomE)

座長:務台 均(信州大学)

[OP-6-4] 口述発表:基礎研究 6/援助機器 3一側の筋への圧刺激は対側の脊髄前角細胞の興奮性に影響を与えない

久納 健太12竹中 孝博3木村 大介24鈴木 俊明1 (1関西医療大学大学院保健医療学研究科,2医療法人和光会山田病院リハビリテーション部,3平成医療短期大学リハビリテーション学科,4関西医療大学保健医療学部 作業療法学科)

【序論】筋緊張の抑制を目的とした運動療法の一つに,筋緊張が亢進している罹患筋の対側の同名筋に振動刺激を与える方法がある(Jackson et al,2000).この方法では対側の同名筋に刺激を与えるため,罹患側の運動を妨げることなく運動療法を行えるという利点がある.しかしながら,振動刺激では同時に圧刺激が加わるため,振動刺激の効果を検討するためには,圧刺激の影響についても理解しておく必要がある.ところが,これら一側の圧刺激が対側の筋緊張に及ぼす影響についての検証は十分ではない.一方,筋緊張を客観的に評価しようとした場合,脊髄前角細胞の興奮性から筋緊張の程度を反映するF波を用いることが有用である.そこで,本研究では,振動刺激を痙縮の治療的介入に用いるための予備的研究として,一側の圧刺激が対側の脊髄前角細胞の興奮性に与える影響についてF波を用いて検討することを目的とする.
【方法】対象は健常者14名(年齢26±3.0歳)である.被験者の測定肢位は安静座位とした.介入群の測定では,左短母指外転筋へ圧刺激を与える前と15秒間の圧刺激中の2時点におけるF波を右短母指外転筋から導出した.圧刺激は,重さを400gで保つよう調整した機器を左短母指外転筋の筋腹上へ与えた.なお,圧刺激には,筋・腱振動刺激装置MGV-1000-F(内田電子社製)を用いた.対照群の測定では,介入群と同様の姿勢で安静時2時点のF波を同部位から導出した.F波の計測には誘発筋電計NeuropackS3(日本光電社製)を用い,F波の記録条件は,刺激部位を正中神経,刺激頻度を2Hz,刺激持続時間を0.2msとした.なお,本研究では,F波の最小振幅基準を30μV以上とし,波形分析項目は振幅F/M比,出現頻度とした.統計学的検討は,本研究データをShapiro-Wilk検定を実施したところ正規性を認めなかったため,安静条件と圧刺激条件の2要因,刺激前と刺激中の2水準を固定効果とする一般化線形混合モデルを行い交互作用を確認,Bonferroni補正によるWilcoxonの符号付順位検定を実施し,主効果を確認した.なお,本研究は,筆頭演者の所属機関の研究倫理審査委員会の承認を得ている.
【結果】振幅F/M比では,介入群と対照群に交互作用は認められなかった(p=0.167).また,刺激前と刺激中における時間の主効果は,介入群(p=0.705),対照群(p=0.102)共に有意差は認められなかった.一方,出現頻度では,介入群と対照群に交互作用を認めず(p=0.314).時間要因とする主効果は,介入群(p=0.096),対照群(p=0.688)で,共に有意差は認められなかった.
【考察】本研究で波形分析項目として用いたF波の出現頻度は,全刺激に対してF波が記録できた回数,振幅F/M比は,出現したF波振幅平均値を最大M波振幅値で除し,百分率した値である.これらは脊髄前角細胞の興奮性を示す指標であり,筋緊張の程度を表すことができる.持続的な圧刺激は,メルケル細胞やルフィニ終末からAβ線維を興奮させることで脊髄へ至り,同側の交連介在ニューロンを介して脊髄前角細胞を抑制する神経回路が想定されるため(渕野,2021),圧刺激は同側の脊髄前角細胞を抑制する.一方,皮膚からの求心性線維は,脊髄で対側への交連介在ニューロンを介さないため,対側の脊髄前角細胞の興奮性に影響を与えないことが報告されている(Delwaide et al,1991Hortobagyi et al,2003).本結果では,圧刺激を与えても対側の脊髄前角細胞の興奮性に有意な変化がなかったことから,皮膚からの求心性繊維への刺激と同様に,圧刺激も対側の脊髄前角細胞の興奮性には抑制性に作用しないことが示唆されたと考えられる.