第56回日本作業療法学会

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一般演題

管理運営

[OQ-2] 一般演題:管理運営 2

Sat. Sep 17, 2022 12:30 PM - 1:30 PM 第6会場 (RoomB-1)

座長:鈴木 達也(聖隷クリストファー大学)

[OQ-2-2] 口述発表:管理運営 2作業療法士が体験する信念対立のエスカレーションの質的解明

安井 茜1寺岡 睦2京極 真2 (1日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院リハビリテーション部,2吉備国際大学大学院保健科学研究科)

背景と目的
 医療現場ではチーム医療を行う中で,医療スタッフ間の価値観の相違や業務の増大から,対立がエスカレートし,医療現場の疲弊や実践の空洞化につながる場合がある.近年でも医師が頂点のヒエラルキーの存在や医療父権主義といった従来の医療モデルが深く根付いていることにより,クライエントと医療者間でも対立のエスカレーションが起こりうる.エスカレーションとは,経過に伴い状況が悪化するプロセスのことを指す.信念対立が発生すると心身の健康を損なうおそれがあり,チーム医療の機能不全や医療崩壊を招くことも指摘されていることから,本研究の目的は,医療現場に勤務する作業療法士が体験する信念対立のエスカレーションを質的に明らかにすることとした.
対象と方法
 本研究は吉備国際大学の研究倫理審査委員会の承認を受け,実施された(受理番号20-28).研究協力者に本研究の主旨を書面にて説明し,同意が得られた方を対象とした.対象は,関心相関的サンプリングを用い,医療現場に勤務する作業療法士で,信念対立のエスカレーションを約1年以内に体験した方とした.研究デザインは構造構成的質的研究法を用い,半構造化インタビューを実施した.データ分析には,Steps for Cording And Theorizationを用いた.
結果
 対象者は3名(すべて男性)であった.インタビューから47の理論記述と143個のテーマ・構成概念が得られた.信念対立の相手は,A氏が看護師と介護福祉士,B氏が精神保健福祉士,C氏が理学療法士の上司であった.対象者のテーマ・構成概念から2名以上に共通するテーマを見出し,信念対立のエスカレーションモデルを作成した.共通テーマは【】で示した.
 対象者の信念対立のエスカレーションは,他職種との【権力による信念対立】であった.作業療法士は【不平等な権力構造】のもとで,【信念対立の気配の察知】をしながらも【歩み寄りへの期待】を持ち合わせていたが,【役割や専門性の曖昧さによる衝突】を繰り返すことで【不信感の増強】した状態となり,【決定的な価値観の相違の痛感】に至った.その後,双方の【敵視や反発】,【不条理な権力の行使】により【失望や落胆】を体験し,【満身創痍】や【休職や退職の決意】へと至った.その中心的構造には【確信構造の強化】があった.さらに,エスカレーションを加速させる要因として,【次の問題を生み出す問題解決行動】,【対処法が持つ加害性に対する無自覚】,【周囲からの孤立】,【対処法による問題への加担】がみられた.
考察
 本研究で明らかになった知見は,確信構造の強化のグレード,問題解決行動の失敗,他職種との権力による信念対立のエスカレーションであった.作業療法士が体験する信念対立のエスカレーションの中心的構造には【確信構造の強化】があった.メタ認知を用いて【確信構造の強化】を認識することが信念対立のエスカレーションの対策に有効だと考えられる.
 次に,対象者は信念対立を解決しようと努力するが,解決行動が実を結ばず,共に問題を大きくしていった.信念対立のエスカレーションの状態では,第三者介入が必要であると考えられるが,不適切な信念対立の対処により信念対立のエスカレーションが加速するということが明らかになった.
 また対象者は,他職種との【権力による信念対立】を体験していた.信念対立がエスカレートすると【満身創痍】となり,【休職や退職の決意】に至るという見通しを持つことが大切である.信念対立のエスカレーションを加速させないためには,高度なコミュニケーション能力が必要であると考えられる.