第56回日本作業療法学会

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一般演題

教育

[OR-5] 一般演題:教育 5/理論 2

Sun. Sep 18, 2022 9:40 AM - 10:40 AM 第4会場 (RoomA)

座長:井村 亘(玉野総合医療専門学校)

[OR-5-3] 口述発表:教育 5/理論 2事例基盤型学習は新人作業療法士のクリニカルリーズニングに影響を与えるか

~混合研究法~

丸山 祥1廣瀬 卓哉1野口 卓也2宮本 礼子3ボンジェ ペイター3 (1湘南慶育病院,2慈圭病院,3東京都立大学)

【緒言】作業療法の思考プロセスであり専門職としての思考スキルであるクリニカルリーズニングは,健康関連専門職の教育の鍵と言われ,その教育として事例検討等の事例基盤型学習が取り組まれている一方,作業療法士教育としての根拠の蓄積は未だ十分ではない.本研究では,事例基盤型学習が新人作業療法士のクリニカルリーズニング自己評価にもたらす変化を量的・質的側面から検討した.
【方法】本研究は混合研究法のうち収斂デザインを用いた.研究対象者は,当院に勤務する新人作業療法士だった.抽出方法は,当院で実施される事例基盤型学習プログラムに参加した者のうち,本研究への参加に同意を得た者を抽出した.なお,本研究は無記名の調査であるため,回答を持って同意を得たとみなした.本研究は当院倫理審査委員会の承認(承21-004)を得て実施された.介入として選択した事例基盤型学習のプログラム内容は,a)一事例の振り返り,b)文献レビュー,c)思考過程の整理,d)報告内容の討論とそれらに対する教育者からの助言や指導であり,2か月間実施した.量的データ収集は,a)フェイスシート,b)作業療法のクリニカルリーズニング自己評価尺度だった.質的データ収集では,事例基盤型学習の経験に関する自由記述式の調査用紙を配布した.対象者への調査用紙の配布と回収,データ入力は,研究者代表者や共同研究者とは別の第3者が行った.量的データ分析は,ベイズ推定による一般化線形混合モデルを用いた.モデル設定は,目的変数に作業療法のクリニカルリーズニング自己評価尺度の合計得点および下位因子4種の計5要因,固定効果を事例基盤型学習の介入前後,変量効果は対象者の個体差を示す識別番号を投入した.質的データ分析は,調査用紙に記述された内容をデータとして,再帰的テーマ分析を用いて事例基盤型学習における対象者の学習経験を分析した.本研究では,量的・質的結果の統合方法として収斂デザインで用いられるデータの合体を実施した.このプロセスは,考察において質的結果が量的結果をどのように補完するか,という観点から統合した.
【結果】本研究の対象者数は10名だった.量的分析の結果,介入効果が認められたモデルは全5要因から次の2要因だった;1)クリニカルリーズニング自己評価尺度の合計得点(推定値=4.20,標準誤差=1.73,95%Cl=0.81-7.78),2)下位因子「実践の文脈を活かす思考プロセス」(推定値=1.19,標準誤差=0.46,95%Cl=0.29-2.09).質的分析の結果,事例検討プログラムに対する新人作業療法士の学習経験として,53のコード,27の構成概念と4つのテーマが特定された.4つのテーマとは,<実践から学ぶための土台づくり>,<思考プロセスを見直し深める>,<実践を通して専門知識を学ぶ>,<作業療法理念を深める>だった.
【考察】結果より,クリニカルリーズニング自己評価の合計得点に有意な上昇を認めたことは,事例基盤型学習が<実践から学ぶための土台づくり>と<思考プロセスを見直し深める>と<作業療法理念を深める>という,クリニカルリーズニング学習の基礎をなす部分の向上に寄与したことを表すと考えられる.また,下位因子「実践の文脈を活かす思考プロセス」に量的結果で介入効果が認められたことは,質的結果で特定された<実践を通して専門知識を学ぶ>点の成果を表すものと推察される.今後,事例基盤型学習の教育効果を真に明らかにするためには,対象群を設けたさらなる検証や,成果指標として作業療法のクライエントの変化を測定する等が必要である.