[OR-5-5] 口述発表:教育 5/理論 2課題遂行経験が,見通しに与える影響
~身体制限を伴った健常成人における実験研究~
【緒言】人は何かを行う前に,経験を通して見通しを立てている(Kielhofner, 2012).中途身体障害者は,障害がある状態での手段的日常生活活動(IADL)の遂行経験がないため見通しを誤り,できるはずの課題を行うことを躊躇したり,能力よりも難しい課題を行い,危険が生じる可能性がある.しかし,身体に制限を伴う状態で初めて行う課題に関し,遂行経験により見通しを変化させるのか,見通しの正確性を向上させるかは検証されていない.
【目的】身体制限を伴った健常者において,1回のIADL課題遂行経験により課題への見通しを変化させるのか,また見通しの正確性が高くなるのか検証することを目的とした.課題への見通しとは,その課題を行うと仮定したときの,疲労度,効率,安全性,介助量及び過程の予測とし,見通しの正確性が高いとは,課題遂行前に立てた見通しと遂行後の振り返りの差が小さいことと操作的に定義した.
【方法】対象は作業療法治療介入の知識のない健常者26名(平均年齢20.4±1.4歳,男10名).対象者は運動とプロセス技能評価(AMPS)の課題難易度が0.0 logit以上のIADL課題リストから1つ選択し,身体制限として片麻痺疑似体験セットを装着し身体障害を模し,2回遂行した.1回目および2回目の課題遂行前に見通し質問紙,遂行後に振り返り質問紙に回答した.見通し質問紙は,これから行う課題の見通しについて,振り返り質問紙は,実際に行った結果どうであったかについて,疲労度,効率,安全性,介助量及び過程の5項目6件法(1:健常時と全く異なる~6:健常時と全く同じ)で構成された.実験に先だち,質問紙の再検査信頼性を確認した.1回の遂行経験で見通しを変化させたかについて,見通し質問紙の1回目と2回目の結果を項目ごとにWilcoxonの符号付順位和検定で前後比較した.さらに,正確性の高さが向上したかについて,各回の見通し質問紙の回答と振り返り質問紙の回答の差の大きさを,項目ごとに,Wilcoxonの符号付順位和検定で前後比較した.本研究は所属機関倫理委員会の承認を得た.
【結果】効率性(p<.01),安全性(p<.01),介助量(p<.05)で1回目と比較し2回目で有意に高く見通しを変化させていた.疲労度(p>.05)は有意な変化がなかった.見通しの正確性については,疲労度(p<.05),安全性(p<.01),介助量(p<.05)で1回目と比較し2回目で有意に向上していたが,効率性(p>.05)では有意な向上は認められなかった.
【考察】健常者が身体制限の状態となったとき,未経験のIADL課題に対し,特に効率性,安全性,介助量について,自身の課題遂行能力を実際より低く見積もり,経験を通し,見通しを高く立て直す傾向にあった.また,課題遂行経験が次に同じ課題を行う際の見通しの正確性を向上させることが示唆された.しかし効率性に関しては見通しの正確性は変化しておらず, 1回の遂行経験だけでは不十分であると示唆された.本研究は身体障害を模した健常者が対象のため,身体障害者にそのまま適用できるとは限らない.しかし,中途身体障害者はIADL課題を未経験のまま退院することもあり,見通しの正確性が低い可能性がある.退院後に能力に合った方法でIADL課題を行うためには,作業療法士の支援のもとで遂行練習を行い,見通しの正確性を高めることが必要であろう.今後,見通しの正確性をより高めるための介入方略として,遂行練習を行う回数や課題の適切な難易度,性質についても検討すべきである.
【目的】身体制限を伴った健常者において,1回のIADL課題遂行経験により課題への見通しを変化させるのか,また見通しの正確性が高くなるのか検証することを目的とした.課題への見通しとは,その課題を行うと仮定したときの,疲労度,効率,安全性,介助量及び過程の予測とし,見通しの正確性が高いとは,課題遂行前に立てた見通しと遂行後の振り返りの差が小さいことと操作的に定義した.
【方法】対象は作業療法治療介入の知識のない健常者26名(平均年齢20.4±1.4歳,男10名).対象者は運動とプロセス技能評価(AMPS)の課題難易度が0.0 logit以上のIADL課題リストから1つ選択し,身体制限として片麻痺疑似体験セットを装着し身体障害を模し,2回遂行した.1回目および2回目の課題遂行前に見通し質問紙,遂行後に振り返り質問紙に回答した.見通し質問紙は,これから行う課題の見通しについて,振り返り質問紙は,実際に行った結果どうであったかについて,疲労度,効率,安全性,介助量及び過程の5項目6件法(1:健常時と全く異なる~6:健常時と全く同じ)で構成された.実験に先だち,質問紙の再検査信頼性を確認した.1回の遂行経験で見通しを変化させたかについて,見通し質問紙の1回目と2回目の結果を項目ごとにWilcoxonの符号付順位和検定で前後比較した.さらに,正確性の高さが向上したかについて,各回の見通し質問紙の回答と振り返り質問紙の回答の差の大きさを,項目ごとに,Wilcoxonの符号付順位和検定で前後比較した.本研究は所属機関倫理委員会の承認を得た.
【結果】効率性(p<.01),安全性(p<.01),介助量(p<.05)で1回目と比較し2回目で有意に高く見通しを変化させていた.疲労度(p>.05)は有意な変化がなかった.見通しの正確性については,疲労度(p<.05),安全性(p<.01),介助量(p<.05)で1回目と比較し2回目で有意に向上していたが,効率性(p>.05)では有意な向上は認められなかった.
【考察】健常者が身体制限の状態となったとき,未経験のIADL課題に対し,特に効率性,安全性,介助量について,自身の課題遂行能力を実際より低く見積もり,経験を通し,見通しを高く立て直す傾向にあった.また,課題遂行経験が次に同じ課題を行う際の見通しの正確性を向上させることが示唆された.しかし効率性に関しては見通しの正確性は変化しておらず, 1回の遂行経験だけでは不十分であると示唆された.本研究は身体障害を模した健常者が対象のため,身体障害者にそのまま適用できるとは限らない.しかし,中途身体障害者はIADL課題を未経験のまま退院することもあり,見通しの正確性が低い可能性がある.退院後に能力に合った方法でIADL課題を行うためには,作業療法士の支援のもとで遂行練習を行い,見通しの正確性を高めることが必要であろう.今後,見通しの正確性をより高めるための介入方略として,遂行練習を行う回数や課題の適切な難易度,性質についても検討すべきである.