第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

Fri. Sep 16, 2022 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-1-11] ポスター:脳血管疾患等 1訪問リハビリテーション長期利用者のライフステージに合わせた支援~家庭における役割と向き合った事例~

大下 琢也1中辻 珠美1加福 己里宜1山根 伸吾2 (1医療法人健康会嶋田病院,2藍野大学医療保健学部作業療法学科)

【緒言】脳卒中後の役割について,特に子の成長に合わせた変化が求められる育児期では,将来の見通しを立てた介入が重要となる(三瀬,2010).今回,育児期の事例を担当し,その長い経過において,役割獲得に向けて歩み出した発症3年以降の経過を報告する.本報告に際し当院倫理委員会の承認を受け,本人に説明し同意を得ている.
【事例紹介】40代女性.二世帯住宅の2階に夫と小学生の息子と3人暮らし.1階には義父母が居住.病前の生活として,本人は家事手伝いで主に掃除や買い物を担当.X年Y月,くも膜下出血,多発性脳梗塞を発症.加療を経てY+8月,自宅退院.要介護1の認定で,退院後より訪問リハを1回40分・週2回,通所介護・通所リハを利用開始.発症後より家事全般を義母が担い,本人は一部掃除の役割あり.発症から3年に至る過程で,介護保険サービスを利用した生活スタイルが確立.家族と毎週末レジャー等に出掛けられるようになった.本人・家族「今の生活を続けたい」と現状に満足感あり.
【評価】(X+3年Y月時点)退院後からADLの自立度を維持しており, T字杖使用し屋内歩行自立,屋外歩行・階段は見守り.入浴はサービス利用して一部介助,その他ADLは自立.左上肢・手指は重度麻痺,下肢は中等度麻痺が残存.MMSE:30点だが,注意障害や遂行機能障害あり.
【面接】発症からの3年を振り返り,本人と「自分や環境の変化」についてやりとりした.さらに「今の生活を続けるために」という視点で作業ニーズについて聴取し,義母の健康不安や,息子の成長・進学に伴う家族のライフステージの変化に言及があった.作業に関する自己評価「家族の一員などの役割にかかわる」の項目で問題意識があり,重要度が高かった.また,先々に必要となる「息子のお弁当作り」に憧れがあるが,病前から調理の経験が殆どなく見通しを立てられない状態であることが分かった.そのため,まずは継続して調理に取り組み,役割としての調理の形態を模索していくという方針を共有した.
【経過】週1回の頻度で実際の調理を継続した.本人の苦手意識を踏まえ,カット野菜を用いるなど簡易的なメニューから導入した.作った料理を家族に振る舞い,肯定的な反応があった.一方,工程を把握できず動作が滞る場面あり,調理用ファイルを作成して計画・調理・振り返りの各過程で活用したり,ビデオフィードバックを行なった.事前準備など主体的な取り組みが見られ始め,釘付きまな板等の自助具の購入に至り,材料の買い出しから調理まで一連の流れで取り組むようになった.さらに料理の写真を自らSNSにアップし,友人と交流するといった展開がみられた.
【結果】(X+3年Y+8月時点)今回の経過においてAMPSは運動技能-0.5→0.4logit,プロセス技能-0.8→0.7logitに改善あり.調理場面で手が止まる場面が減少し,隙間時間での洗い物や,連続40分以上の立位作業も可能となった.工程の少ない得意料理は,訪問以外の時間で週1回程度調理するようになった.本人の自信もつき,料理を義父母へお裾分けし,義母「作ってもらえると助かる」と反応あり.息子から「料理頑張って」と期待の高まりあり.
【考察】本事例において,当初は調理経験の乏しさが影響し,役割としての見通しを立てることが困難であった.しかし,発症後の経過を振り返ることで,今後の家族のライフステージを踏まえた自身の役割について考えるきっかけとなり,実際に調理の作業を基盤とした実践により,具体的な役割のイメージを持てるようになってきたと考えられる.今後は「息子のお弁当作り」の作業について,役割過重とならないように協働していければと考える.