[PA-1-5] ポスター:脳血管疾患等 1延髄梗塞により身体パラフレニアと余剰幻視が重複した症例
【はじめに】身体パラフレニア(somatoparaphrania:SP)は片麻痺を否認するのみならず,麻痺肢を他人のものと訴えるなど,異常な判断を示す症状である(Gerstmann,1942).余剰幻視(Supernumerary Phantom limb:SPL)は,麻痺側上/下肢とは別に,3本目の上/下肢があると感じるまれな身体意識の異常である(Conomy,1973).今回,左延髄梗塞により重度右片麻痺,SPとSPLと考えられる症状を呈し,リハビリテーション(リハ)経過にて消失した症例を経験したので報告する.倫理的配慮:症例報告にあたり,本人の同意を得て実施した.
【症例提示】患者:50代男性,診断名:延髄梗塞,右利き,主訴:右片麻痺,右手がもう一本あるように感じる.既往歴:高血圧症,尿路結石,左頸部腫瘍(保存),痛風疑い.
現病歴:X年Y月Z日発症.MRIにて延髄右側に未破裂脳動脈瘤,左延髄に低吸収域を認め入院したが,麻痺が増悪し,Z+7気管切開,Z+27当院回復期リハ病棟へ転院.初回評価:意識レベル清明.コミュニケーションは,ジェスチャーや筆談にて日常会話や冗談を交えて可能.身体機能:麻痺は,右上下肢に重度麻痺(Brunnstrom Recovery Stage:BRS II-II-III),感覚障害は,右側表在覚軽度,深部覚重度,眼球運動障害,気管切開のため発語・嚥下障害がみられた.ADLは,FIM運動項目17/91点,認知項目23/35点であった.精神機能:動作上,失認,失行は見られず,コース立方体組み合わせテスト(Kohs)IQ105,TMT-A33秒,B38秒と,注意障害は認めなかった.
【経過】PT,OT,STをそれぞれ1日1時間実施した.当初より日中の意識レベルは清明だったが,夜間は繰り返す悪夢により夢と現実が混同し,非現実的な行動をとる様子が見られた.その後,徐々に起床と共に夢だったと気づくようになった.Z+36病日「肘から先に右手がもう一本あるような感じがする」,Z+37病日「右手が4~5本に増えている」と表出があった.身体描画においても余剰幻肢,異常感覚が認められた. Z+38病日「昨日見た夢のおかげで右手が一本に戻った」と表出があり,夢での消失と共に日中でも同時に消失した.その後3ヶ月入院し,自宅退院後はPT,OT,STで外来リハを継続したが再燃することはなかった.再評価: 身体機能:麻痺 右片麻痺BRS:IV-VIV,右側に失調軽度.感覚は,右側表在覚軽度鈍麻,深部感覚中等度鈍麻,眼球運動障害なし,嚥下障害,構音障害軽度残存.高次脳機能評価:Kohs IQ118,WAIS-IVは全検査得点111.退院時ADLは,FIM運動項目80/91点,認知項目34/35点と大きく改善した.
【考察】症例のSPとSPLは発症から1週間程度出現し消失した.SPLは脳幹部による報告では若年での発症,片麻痺,深部感覚障害が認められており,本症例と合致している.出現時期と消失時期については,一定した見解は報告されていないが,脳卒中患者の半数以上にSPLの体験を報告(Antoniello,2010)があり,脳卒中急性期においては身体イメージの精査が行われることが少ない可能性を指摘し(北恵,2014),潜在的な本症状の理解を深め不安や戸惑いを理解することが重要である.随意性のあるSPLは慢性化する報告もあるが,本症例は1週間程度出現し消失した.これは,上肢機能訓練の他,麻痺側管理の促し,感覚の再入力などを行うことで余剰幻肢が軽減する一因になったと推察した.
【症例提示】患者:50代男性,診断名:延髄梗塞,右利き,主訴:右片麻痺,右手がもう一本あるように感じる.既往歴:高血圧症,尿路結石,左頸部腫瘍(保存),痛風疑い.
現病歴:X年Y月Z日発症.MRIにて延髄右側に未破裂脳動脈瘤,左延髄に低吸収域を認め入院したが,麻痺が増悪し,Z+7気管切開,Z+27当院回復期リハ病棟へ転院.初回評価:意識レベル清明.コミュニケーションは,ジェスチャーや筆談にて日常会話や冗談を交えて可能.身体機能:麻痺は,右上下肢に重度麻痺(Brunnstrom Recovery Stage:BRS II-II-III),感覚障害は,右側表在覚軽度,深部覚重度,眼球運動障害,気管切開のため発語・嚥下障害がみられた.ADLは,FIM運動項目17/91点,認知項目23/35点であった.精神機能:動作上,失認,失行は見られず,コース立方体組み合わせテスト(Kohs)IQ105,TMT-A33秒,B38秒と,注意障害は認めなかった.
【経過】PT,OT,STをそれぞれ1日1時間実施した.当初より日中の意識レベルは清明だったが,夜間は繰り返す悪夢により夢と現実が混同し,非現実的な行動をとる様子が見られた.その後,徐々に起床と共に夢だったと気づくようになった.Z+36病日「肘から先に右手がもう一本あるような感じがする」,Z+37病日「右手が4~5本に増えている」と表出があった.身体描画においても余剰幻肢,異常感覚が認められた. Z+38病日「昨日見た夢のおかげで右手が一本に戻った」と表出があり,夢での消失と共に日中でも同時に消失した.その後3ヶ月入院し,自宅退院後はPT,OT,STで外来リハを継続したが再燃することはなかった.再評価: 身体機能:麻痺 右片麻痺BRS:IV-VIV,右側に失調軽度.感覚は,右側表在覚軽度鈍麻,深部感覚中等度鈍麻,眼球運動障害なし,嚥下障害,構音障害軽度残存.高次脳機能評価:Kohs IQ118,WAIS-IVは全検査得点111.退院時ADLは,FIM運動項目80/91点,認知項目34/35点と大きく改善した.
【考察】症例のSPとSPLは発症から1週間程度出現し消失した.SPLは脳幹部による報告では若年での発症,片麻痺,深部感覚障害が認められており,本症例と合致している.出現時期と消失時期については,一定した見解は報告されていないが,脳卒中患者の半数以上にSPLの体験を報告(Antoniello,2010)があり,脳卒中急性期においては身体イメージの精査が行われることが少ない可能性を指摘し(北恵,2014),潜在的な本症状の理解を深め不安や戸惑いを理解することが重要である.随意性のあるSPLは慢性化する報告もあるが,本症例は1週間程度出現し消失した.これは,上肢機能訓練の他,麻痺側管理の促し,感覚の再入力などを行うことで余剰幻肢が軽減する一因になったと推察した.