第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-1-7] ポスター:脳血管疾患等 1ADOC-Hと上肢活動量計測を用いた介入により麻痺手を生活で使用するための行動変容を促した慢性期脳卒中症例

中西 亮太1石橋 凜太郎1空野 楓1花田 恵介2,3市村 幸盛1 (1医療法人穂翔会村田病院リハビリテーション部,2医療法人錦秀会阪和記念病院リハビリテーション部,3大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

【はじめに】脳卒中後の上肢運動麻痺改善には,生活における麻痺手使用に関する患者自身の問題解決技能の向上が重要であるといわれている(川口,2021).Aid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(ADOC-H)は,手の使用場面の意思決定を促すiPadアプリケーションであり,Transfer package(TP)を補完するツールとして開発された(Ohno,2017).亜急性期や回復期の脳卒中患者ではADOC-Hを活用した報告はあるが,慢性期の報告は少ない.今回,慢性期脳卒中患者に対し課題指向型訓練とADOC-Hを用いたTPに加え,加速度計を用いた活動量計測を実施し,生活における麻痺手の使用頻度向上を認めたので報告する.
【症例紹介】本報告に同意を得た70歳代右利き女性.左放線冠梗塞と診断され他院へ入院し,保存的に治療された.第103病日に自宅退院し,第124病日に外来リハビリテーション(リハ)を開始した.箸操作の獲得を目標に実施していたが,生活場面での使用頻度に大きな改善を認めなかった.リハは継続していたが,発症から約3年が経過し,本例は「だんだん手が使えなくなってきた」と不安を語った.そこで,3軸加速度計(AX3,Axivity Ltd,UK)を用いて生活での麻痺手の活動量を定量的に測定した.その結果,両手動作の活動量は低下しており,右手の活動量は左手より低下していた.測定結果を見ながら生活動作を聴取すると,料理や掃除場面では左右手の差が少なく,リハで本人に指導した作業活動には麻痺手を使用できていると分かったため,この結果を視覚的に提示し動機付けとした.その時の上肢機能は,FMA-UEが50/66点,STEFが44/100点,ARATが49/57点,MALがAOU3.2/5.0,QOM2.8/5.0であった.ADLは自立していたが,箸操作は1割程度しか行えず,書字動作では数行書けるものの易疲労性を認め,日常生活では麻痺手の不使用が顕著であった.さらなる使用頻度と質の向上を目指すべく課題指向型訓練と,ADOC-Hを用いて生活場面での使用頻度向上を図る訓練を実施した.1回60分,週1回のリハを計8回,1.5ヶ月実施した.
【介入】ADOC-Hを用いて作業活動を提示し,訓練室での実使用訓練も実施しながら翌週のリハで達成度を聴取した.具体的には,本人の希望である箸での食事摂取に加え,まずは片手動作として「洗濯機のボタンを右手で押す」「扉を右手で開ける」などの作業活動を提示した.実施できる活動はあるものの,翌週の達成度が低かったため,食事の際におかずを一口サイズにするなどの環境調整も踏まえ,どのような場面で麻痺手を使用するかを具体的に助言した.また,使用頻度を増やすことの重要性を再度説明した.翌週の達成度は向上し,「おかずは半分くらい食べれるようになったけど麺類が難しい」,「洗濯機のボタン押せるようになってきたけど力が入りにくい」など麻痺手使用に対して具体的な発言もみられるようになった.ADOC-Hを用いた介入を重ねていくと,本例から「ボタン・ファスナーもできそう」と麻痺手使用に関する前向きな発言が増加し,両手動作も作業活動として追加することとした.
【結果】FMA-UEは54/66点,STEFは82/100点,ARATは52/57点,MALはAOU4.0/5.0,QOM3.7/5.0となった.MALはVan der leeら(1999)が示したMCIDを上回る改善を示し,食事場面での箸操作が7割可能となり,日記をつける程度の書字動作も可能となった.病前に行っていた書道にも挑戦するといった行動変容を認めた.
【考察】慢性期症例においてもADOC-Hや上肢活動量計測を用いることで,麻痺手の生活における使用頻度向上を図れる可能性が示唆された.