第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

2022年9月16日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-1-9] ポスター:脳血管疾患等 1脳腫瘍術後患者における作業療法目標の特徴

伊藤 駿1佐藤 正彬2鈴木 朝香1古橋 啓介1佐賀里 昭2 (1信州大学医学部附属病院リハビリテーション部,2信州大学医学部保健学科作業療法学専攻)

【はじめに】
 がんのリハビリテーションガイドラインにおいて脳腫瘍患者に対する介入は脳卒中と同様のリハビリテーションを実施することが推奨されている(辻哲也,2013).しかし,脳腫瘍患者は脳卒中と同様の神経系損傷による機能障害に加え,病気の告知や不確実な予後,放射線療法や化学療法などの治療を含むがんの影響に関連した独自の課題に直面している(Cubis L, 2017).そのため脳腫瘍患者と脳卒中患者では介入時の作業療法目標が異なることが多い.そこで脳腫瘍術後患者の作業療法目標の特徴を明らかにするために本研究を行った.
【方法】
 対象者は2021年4月から2022年1月の間に脳腫瘍と診断され,当院にて開頭腫瘍摘出術を施行された患者29例(髄膜腫10例,神経膠腫10例,聴神経腫瘍5例,転移性脳腫瘍1例,類皮のう胞1例,未分類2例)とした.対象者の平均年齢は58歳(21-77歳),性別は男性11例,女性18例であった.適格基準として,①本研究の参加について同意が得られた者 ②Mini Mental Stage Examination 24点以上の者 ③20歳以上の者とした.術後,病棟歩行が可能になった時期にiPadアプリケーションのAid for Decision-making in Occupation Choice(以下,ADOC)を用い作業療法士が面接を行い,作業療法目標を抽出した.面接にて対象者には,“できるようになりたいこと”,“新しくやってみたいこと”,“できなくて困っていること”,“心配に思っていること”,“できるようになる必要があること”に当てはまる重要な作業を選択してもらった.なお,本研究は当施設倫理委員会の承認を得て実施した.
【結果】
 得られた有効なADOCのコードは145項目であった.選定されたカテゴリー別では「セルフケア」が17,「移動・運動」が47,「家庭生活」が37,「仕事・学習」が16,「対人交流」が0,「社会活動」が4,「スポーツ」が0,「趣味」が24であった.「移動・運動」が最も多く,次いで「家庭生活」を選択する患者が多い傾向にあった.生活行為別では「運転や操作」が21,「仕事」が16,「炊事」が11,「ウォーキング」が9,「屋内の移動」と「物を持って運ぶ」が6項目選定されていた.
【考察】
 今回,脳腫瘍術後患者の目標設定で選択されたカテゴリーは「移動・運動」,「家庭生活」の順に多く,生活行為別では「運転や操作」,「仕事」,「炊事」の順に多く設定されていた.脳卒中患者を対象とした先行研究(Shawn P, 2007)では,「セルフケア」と「家庭生活」の目標が多い傾向にあったと報告されている.本研究で「セルフケア」ではなく,「運転や操作」や「仕事」の項目が多く挙がった理由として,脳腫瘍患者は脳卒中患者と比べて在宅移行率が高いこと(百瀬由佳,2007)と,発症年齢が若いことが挙げられると考えられる.本研究の結果より,当院の脳腫瘍患者は国際生活機能分類の「心身機能・身体構造」と「活動」に制限を抱えるものの,「参加」への従事を期待していることが明らかになった.今後はさらに患者一人一人の目標を明確に設定した上で,「参加」に主眼を置いた作業療法介入を実施していく必要性があると考える.