第56回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

Sat. Sep 17, 2022 2:30 PM - 3:30 PM ポスター会場 (イベントホール)

[PA-10-2] ポスター:脳血管疾患等 10自動車運転評価における神経心理学的検査の結果,及び評価実施時期が運転再開可否に及ぼす影響

石田 早希1成田 悟志1 (1医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院リハビリテーション部)

【はじめに】近年,脳血管疾患に罹患した患者に対し自動車運転の再開支援を行う医療機関は増加している.自動車運転評価(以下:運転評価)における神経心理学的検査(以下:机上評価)は,急性期病院において短期間の入院治療中に行い,不合格判定となった者は退院後に再評価を行う.しかし復職や生活圏で車が必要な地域に在住の場合,早期に運転再開を希望する事が多い.先行研究では,机上再評価は自宅生活が安定した後に改めて行うのが望ましい(片山直紀 2017)との報告があるが一定の見解が得られていない.本研究では脳損傷による高次脳機能障害の症状を有する患者を対象に自動車運転再開の可否が,発症日又は手術日~2カ月未満で行う時期によるものか,入院時及び外来時の机上評価の結果によるものなのか明らかにする.
【方法】2018年4月~2021年9月までに脳損傷による高次脳機能障害の症状を有し,発症日又は手術日~2カ月未満で外来机上評価を行った者とし,除外基準は入院期間が1週間未満,自宅退院~机上再評価までの期間が1週間未満の者とした.外来机上評価の結果から合格群と不合格群に分類し,在院日数,発症日又は手術日~外来机上評価までの日数,年齢,MMSE,TMT-A,TMT-B,Rayの複雑図形(模写/即時再生/遅延再生),コース立方体組み合わせテスト,FAB,Modified stroop test(part1/part2/part2-part1)を入院時と外来時で比較検討した.また合格群と不合格群における外来机上評価の中から1か月未満,1~2カ月に分類し割合の差を比較検討した.統計学処理には対応のないT検定,Fischerの正確確率検定を用い,有意水準は0.05とした.本研究は当院の倫理委員会の承認を受けて実施した.
【結果】対象者36名のうち,合格群27名,不合格群9名であった.入院時机上評価(合格群/不合格群)ではTMT-A(124.7±38.8/155.7±46.7,P=0.03),外来時机上評価(合格群/不合格群)ではMMSE(29.1±1.1/28.0±1.9,P=0.04),TMT-B(140.2±51.9/192.5±68.7,P=0.02)で差を認めた.合格群と不合格群における外来机上評価の中から1か月未満と,1~2カ月に分類した割合の差は,1カ月未満で評価を行った者は合格群が6名,不合格群は1名であり,1~2カ月で評価を行った者は合格群が21名,不合格群が8名でP=0.051と差を認めなかった.
【考察】不合格群では入院時机上評価のTMT-A及び外来時机上評価のTMT-B,MMSEが有意に低値となった.また合格群と不合格群における外来机上評価では1か月未満と1~2カ月で行う評価の時期に割合の差は認めなかった.神経心理ピラミッドは高次脳機能には階属性があり,基礎レベルの機能が障害されると上位の機能も障害を受ける事を示し,更に注意には階属性があり基礎レベルに注意の選択,持続,高次レベルに注意の配分,転換,制御や切り替えがあるとされている(立神粧子>2006).これらから,運転再開可否に関しては机上評価を行う時期による影響よりも入院中の基礎レベルの注意の指標であるTMT-Aが影響し,またその後の回復過程において,より上位レベルの情報処理や記憶能力の指標であるTMT-BやMMSEが影響したと考えられる.先行研究では,脳機能の変化や回復は刺激によって生じる体験に注意が払われている時に生じる(加藤元一郎 2002)と述べられており,自宅退院時に個人の能力に応じた生活指導等を行う事で,内的又は外的刺激によって生じる行動や体験に注意が払われやすくなると考えられる.本研究結果より,発症日又は手術日~2カ月未満で行う評価実施時期よりも,個人の入院時中の基礎レベルの注意の障害及び,より上位レベルの情報処理や記憶能力の回復が早期運転再開に影響することが示唆された