[PA-10-6] ポスター:脳血管疾患等 10左橋梗塞発症後に右大脳半球の再発作を認めた症例の右上肢片麻痺における急激な機能改善
【はじめに】今回我々は,左橋梗塞発症約4か月後に右大脳半球の再発作を認めた症例を経験した.経過中,既存の右上肢片麻痺機能に特徴的な推移を認めたため,これを報告する.なお,本発表に際しては対象者より書面にて同意を得た.
【症例紹介】60代の右利き男性.現病歴として,X年Y月Z日に右上下肢の脱力を自覚し,A病院に搬送された.診断名は左橋梗塞であった.急性期の加療を終え,発症3週後である第20病日にリハビリ目的にて当院へ転院となった.転院時の右上肢の運動麻痺は,Fugl-Meyer Assessment上肢スコア(FMA)にて13点であり,作業療法では自宅退院に向けてADL練習や右上肢における課題指向型練習を行った.経過中徐々に機能改善が得られ,FMAの得点は発症後18週で55点となった.なお,11週から18週までの得点の増加は3点であり,運動麻痺の回復はプラトーに差し掛かっていると推察された.その後第120病日に自宅退院が予定されたが,第119病日に再び脳梗塞を発症し,右前頭葉梗塞と診断された.
【作業療法介入経過】①再発作を契機に右上肢片麻痺に急激な改善を認めた時期(発症後8~19週)再発作後である発症後19週の右上肢のFMAは,18週の55点から63点と劇的に改善した.左上肢には新たに手指中心に軽度の麻痺を認め,FMAは64点であり,著明な感覚障害は認めなかった.生活場面では,左上肢の運動麻痺により困難なことが増えた半面,右上肢の使用頻度が向上した.右上肢のMotor Activity Log(MAL)では,11週時点の使用量(Amount of Use:AOU)と動作の質(Quality of Movement:QOM)は共に0.9点であったが,再発作後の19週ではそれぞれ4点,2点と向上した.他,右上肢の筋緊張の評価はModified Ashworth Scale(MAS)の肘屈曲にて,8週時点で1であったが,再発作後の19週には0へと軽減した.感覚障害は,2-4指指尖にしびれがあったものの,再発作後は変化を認めず,高次脳機能障害は再発作前後で著明な低下を認めなかった.再発作後の作業療法では,左上肢で行えていたADLの再獲得のため,主に新たに生じた左上肢の運動麻痺に対して介入し,右上肢は維持的な介入に留めた.
②一時的に右上肢機能が低下した時期(発症後20~23週)左上肢の機能は21週にてFMAが満点となるなど,機能的な改善がみられた.一方,右上肢では,MALのAOUが2.1点へと低下し,23週ではFMAの得点が56点と低下した.肘屈曲のMASも1+と,再発直後に比べ痙縮の増悪を認めた.生活場面では,再発作前に左上肢で行っていたADLを再獲得できていたため,作業療法では23週の評価を終えた頃に,内容を再び右上肢中心の課題指向型練習やADL練習に切り替えた.
③再び右上肢の機能改善が得られた時期(発症後24~33週)左上肢の麻痺はADL上の使用で問題ない程度であり,FMAは最終評価時まで満点が維持された.右上肢では,最終評価時には再発作前よりFMAの得点が向上し,64点となった.肘屈曲のMASは1と,②の時期に比べ軽減した.MALではAOUが2.1,QOMが4点であった.その後,本症例は発症後33週の第234病日に自宅退院となった.
【考察】本症例の上肢機能の推移から,再発直後の右上肢の劇的な機能改善には半球間抑制の減弱が関連すると推察される.しかし,その後左上肢の機能改善に続き,右上肢に使用頻度の減少と一時的な機能低下がみられた.それらを受け,再び右上肢に焦点を当て介入を行うことで機能回復が生じたことから,健常側大脳半球再発後の既存上肢片麻痺の機能改善には,経時的な評価の上で,その練習量の確保が重要かもしれない.本症例の経過は,脳梗塞再発後の両片麻痺症例への作業療法の展開に寄与する可能性がある.
【症例紹介】60代の右利き男性.現病歴として,X年Y月Z日に右上下肢の脱力を自覚し,A病院に搬送された.診断名は左橋梗塞であった.急性期の加療を終え,発症3週後である第20病日にリハビリ目的にて当院へ転院となった.転院時の右上肢の運動麻痺は,Fugl-Meyer Assessment上肢スコア(FMA)にて13点であり,作業療法では自宅退院に向けてADL練習や右上肢における課題指向型練習を行った.経過中徐々に機能改善が得られ,FMAの得点は発症後18週で55点となった.なお,11週から18週までの得点の増加は3点であり,運動麻痺の回復はプラトーに差し掛かっていると推察された.その後第120病日に自宅退院が予定されたが,第119病日に再び脳梗塞を発症し,右前頭葉梗塞と診断された.
【作業療法介入経過】①再発作を契機に右上肢片麻痺に急激な改善を認めた時期(発症後8~19週)再発作後である発症後19週の右上肢のFMAは,18週の55点から63点と劇的に改善した.左上肢には新たに手指中心に軽度の麻痺を認め,FMAは64点であり,著明な感覚障害は認めなかった.生活場面では,左上肢の運動麻痺により困難なことが増えた半面,右上肢の使用頻度が向上した.右上肢のMotor Activity Log(MAL)では,11週時点の使用量(Amount of Use:AOU)と動作の質(Quality of Movement:QOM)は共に0.9点であったが,再発作後の19週ではそれぞれ4点,2点と向上した.他,右上肢の筋緊張の評価はModified Ashworth Scale(MAS)の肘屈曲にて,8週時点で1であったが,再発作後の19週には0へと軽減した.感覚障害は,2-4指指尖にしびれがあったものの,再発作後は変化を認めず,高次脳機能障害は再発作前後で著明な低下を認めなかった.再発作後の作業療法では,左上肢で行えていたADLの再獲得のため,主に新たに生じた左上肢の運動麻痺に対して介入し,右上肢は維持的な介入に留めた.
②一時的に右上肢機能が低下した時期(発症後20~23週)左上肢の機能は21週にてFMAが満点となるなど,機能的な改善がみられた.一方,右上肢では,MALのAOUが2.1点へと低下し,23週ではFMAの得点が56点と低下した.肘屈曲のMASも1+と,再発直後に比べ痙縮の増悪を認めた.生活場面では,再発作前に左上肢で行っていたADLを再獲得できていたため,作業療法では23週の評価を終えた頃に,内容を再び右上肢中心の課題指向型練習やADL練習に切り替えた.
③再び右上肢の機能改善が得られた時期(発症後24~33週)左上肢の麻痺はADL上の使用で問題ない程度であり,FMAは最終評価時まで満点が維持された.右上肢では,最終評価時には再発作前よりFMAの得点が向上し,64点となった.肘屈曲のMASは1と,②の時期に比べ軽減した.MALではAOUが2.1,QOMが4点であった.その後,本症例は発症後33週の第234病日に自宅退院となった.
【考察】本症例の上肢機能の推移から,再発直後の右上肢の劇的な機能改善には半球間抑制の減弱が関連すると推察される.しかし,その後左上肢の機能改善に続き,右上肢に使用頻度の減少と一時的な機能低下がみられた.それらを受け,再び右上肢に焦点を当て介入を行うことで機能回復が生じたことから,健常側大脳半球再発後の既存上肢片麻痺の機能改善には,経時的な評価の上で,その練習量の確保が重要かもしれない.本症例の経過は,脳梗塞再発後の両片麻痺症例への作業療法の展開に寄与する可能性がある.