[PA-10-9] ポスター:脳血管疾患等 10脳卒中後うつ状態に対して作業療法カウンセリングを行いうつ状態が改善した一例
【はじめに】 脳卒中後うつ(post stroke depression;PSD)は脳卒中患者の33%に存在する.治療方法として認知行動療法と作業療法による効果が報告されている(kootker,2017)が,本邦では報告が少ない.認知行動療法を作業療法に応用した方法論として作業療法カウンセリング(以下OTC)がある.OTCとは対象者の気づきと意欲を引き出すアプローチである(大嶋,2020).今回,回復期病棟の重度脳卒中患者に対しOTCを行い,抑うつ状態が改善した.この経緯と考察を報告する.
【対象】右頭頂葉梗塞を発症した80歳代男性である.元建築会社経営者で,娘と2人暮らしをしていた.発症2か月後,左上下肢の機能はBr.stage:Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ,重度感覚障害,FIM:60点(トイレ動作1点),MMSEは19点,重度左半側空間無視があった.作業療法目標は「トイレ動作自立」で目標の満足度は0/100点だった.日中は強い疲労感を訴え,リハビリテーション(以下リハビリ)に対する意欲が低下していた.症例の概念化(心理評価)を行うと,リハビリ場面では「怠けて役にたたない」「生きていてもしょうがない」という抑うつ的な自動思考があった.感情は「イライラ100%,不安80%」,対処行動は「とにかく頑張る」だった.自身の「強み」は挙げられなかった. 脳卒中後うつスケール(以下JSS-D)は12.1点(カットオフ2.4点)だった.抑うつ状態の改善を目的に通常の作業療法に加えてOTCを導入した.なお,本研究と発表について予め本症例から同意と承認を得ている(病院内倫理審査承認済み).
【方法】OTCは作業療法中に毎回5-10分間ほど行う.始めに,症例の概念化で評価された「本人の強み」に対する気づきを引き出し,行動活性化で作業活動への意欲を動機づける.次に,認知再構成法を用いて適応的な思考へ導いた.
【介入経過】症例の概念化で過去の成功体験や問題解決法に焦点をあてると,自身の強みとして「段取りのよさ」「前向きさ」が挙がった.強みを活かすため,トイレ動作訓練の段取りは本人と相談し,実現が難しい提案や目標も行動実験として前向きに捉えて行った. 発症3か月後,自分から「娘に訓練効果を見せたい」と目標を決めた.娘に成果が認められるとポジティブな言動が増えた.認知再構成法では,視点を変えるために,経営者をしていた頃の自分に戻ったつもりで,現在の状況を振り返った.自動思考は「怠けて役に立たない」から「年だから疲れてしょうがない」へと変化し,イライラと不安の軽減がみられた.
【結果】発症5カ月後,Br.stage:Ⅱ-Ⅰ-Ⅳ.FIM:78点(トイレ動作4点),MMSE:22点(遅延再生と口頭指示が改善),軽度半側空間無視,トイレ動作満足度:90/100点, JSS-D:0.96点,リハビリの場面では「なんとかなる」「生きていればいいこともある」と肯定的な自動思考が出現した.感情は「イライラ0%,不安20%」と減少し,対処行動は「疲れたら休む」であった.
【考察】本症例は,喪失体験から反応的に抑うつ的な思考が発生していた.そして,リハビリから逃避して行動が減少することで,さらに抑うつ状態が進んでしまう悪循環に陥っていた.この状態に対して,症例の概念化で方略を決定したOTCにより,自身の成功体験を語ることでポジティブな思考が活性化し,自身の強みに気がついた.次に,強みを活かした作業療法の成功体験は,主体的な行動を増やし,作業活動の満足度を高めた.悪循環に変化が生じたうえで,認知再構成を行ったことにより,現実に肯定的な側面に気がつきやすくなり,抑うつ的自動思考が減少した.OTCにより自動思考と行動が変容し,抑うつ状態が改善したことが推察された.
【対象】右頭頂葉梗塞を発症した80歳代男性である.元建築会社経営者で,娘と2人暮らしをしていた.発症2か月後,左上下肢の機能はBr.stage:Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ,重度感覚障害,FIM:60点(トイレ動作1点),MMSEは19点,重度左半側空間無視があった.作業療法目標は「トイレ動作自立」で目標の満足度は0/100点だった.日中は強い疲労感を訴え,リハビリテーション(以下リハビリ)に対する意欲が低下していた.症例の概念化(心理評価)を行うと,リハビリ場面では「怠けて役にたたない」「生きていてもしょうがない」という抑うつ的な自動思考があった.感情は「イライラ100%,不安80%」,対処行動は「とにかく頑張る」だった.自身の「強み」は挙げられなかった. 脳卒中後うつスケール(以下JSS-D)は12.1点(カットオフ2.4点)だった.抑うつ状態の改善を目的に通常の作業療法に加えてOTCを導入した.なお,本研究と発表について予め本症例から同意と承認を得ている(病院内倫理審査承認済み).
【方法】OTCは作業療法中に毎回5-10分間ほど行う.始めに,症例の概念化で評価された「本人の強み」に対する気づきを引き出し,行動活性化で作業活動への意欲を動機づける.次に,認知再構成法を用いて適応的な思考へ導いた.
【介入経過】症例の概念化で過去の成功体験や問題解決法に焦点をあてると,自身の強みとして「段取りのよさ」「前向きさ」が挙がった.強みを活かすため,トイレ動作訓練の段取りは本人と相談し,実現が難しい提案や目標も行動実験として前向きに捉えて行った. 発症3か月後,自分から「娘に訓練効果を見せたい」と目標を決めた.娘に成果が認められるとポジティブな言動が増えた.認知再構成法では,視点を変えるために,経営者をしていた頃の自分に戻ったつもりで,現在の状況を振り返った.自動思考は「怠けて役に立たない」から「年だから疲れてしょうがない」へと変化し,イライラと不安の軽減がみられた.
【結果】発症5カ月後,Br.stage:Ⅱ-Ⅰ-Ⅳ.FIM:78点(トイレ動作4点),MMSE:22点(遅延再生と口頭指示が改善),軽度半側空間無視,トイレ動作満足度:90/100点, JSS-D:0.96点,リハビリの場面では「なんとかなる」「生きていればいいこともある」と肯定的な自動思考が出現した.感情は「イライラ0%,不安20%」と減少し,対処行動は「疲れたら休む」であった.
【考察】本症例は,喪失体験から反応的に抑うつ的な思考が発生していた.そして,リハビリから逃避して行動が減少することで,さらに抑うつ状態が進んでしまう悪循環に陥っていた.この状態に対して,症例の概念化で方略を決定したOTCにより,自身の成功体験を語ることでポジティブな思考が活性化し,自身の強みに気がついた.次に,強みを活かした作業療法の成功体験は,主体的な行動を増やし,作業活動の満足度を高めた.悪循環に変化が生じたうえで,認知再構成を行ったことにより,現実に肯定的な側面に気がつきやすくなり,抑うつ的自動思考が減少した.OTCにより自動思考と行動が変容し,抑うつ状態が改善したことが推察された.