[PA-11-1] ポスター:脳血管疾患等 11脳卒中患者における,抑うつ症状と意味のある作業の満足度,自己効力感との関連
【はじめに】脳卒中後うつ症状(Post stroke depression: PSD)の発症リスクが上昇する脳卒中発症後6ヵ月間(Werheid 2016)は,回復期リハビリテーション病棟(回復期病棟)の入院時期と重なる.PSDの症状軽減には心理社会的側面として自己効力感との関連(Robinson 2000)や,個人目標である意味のある作業に焦点を当てた介入の有効性(Graven 2016)について報告されている.しかし,回復期病棟入院中のPSDの症状軽減に,自己効力感や意味のある作業の満足度の変化がどのように関連するかを調査した報告は見当たらない.
【目的】回復期病棟におけるPSD患者を対象に,意味のある作業の満足度の変化が自己効力感の変化を媒介してPSDを軽減させる関係にあるかを検証すること.
【方法】本研究は,入院時と退院時のデータの反復測定を伴う後ろ向き観察研究デザインとし,同意方法はオプトアウト方式で実施した(所属機関の倫理審査委員会の承認済み).対象者は2019年11月から2021年11月に当院回復期病棟に入退院し,説明理解や表出が可能な患者とした.目的変数の抑うつ症状はSelf-rating Depression Scale: SDSで測定し,入院時のSDSスコア40点以上の者をPSD患者と定義した.説明変数である意味のある作業の満足度はAid for Decision-making inOccupation Choice: ADOCで測定し,挙がった作業の満足度の平均値を算出した.自己効力感はGeneral Self-Efficacy Scale: GSESで測定した.また,共変量として麻痺の重症度をBrunnstromRecovery Stage: BRS,ADL能力をFunctional Independence Measure: FIM,認知機能をMiniMental State Examination: MMSEで測定した.SDS,ADOC,GSESおよび共変量の入退院時間の変化量を算出し,全変数間の相関分析を行った上で,媒介分析を行った.媒介分析は,ステップ1ではADOCとSDSとの直接的な関連,ステップ2ではADOCとGSESとの直接的な関連,ステップ3ではGSESとSDSとの直接的な関連,ステップ4ではステップ1の重回帰モデルにGSESを投入し,GSESがADOCとSDSの媒介因子として媒介しているかを検討した.いずれの重回帰モデルも共変量調整を行った.
【結果】集積された286名のうち,入院時にPSDを有する対象者は72名(61.0%)であった.ピアソンの相関分析では,SDSとADOCに弱い負の相関(r = -0.367, p = 0.002),ADOCとFIMの認知項目に弱い正の相関(r = 0.289, p = 0.017),GSESとFIMの運動項目に弱い正の相関を認めた(r =0.239, p = 0.049).媒介分析では,ステップ1でのADOCからSDSへの有意な直接効果を認めた(β = -2.8, 95%CI[-4.4, -1.1], p = 0.002).ステップ2でのADOCからGSES(β = 0.52, 95CI[-0.18, 1.2], p = 0.145),ステップ3でのGSESからSDS (β = -0.59, 95CI[-1.2, 0.03],p = 0.063)に対する有意な直接効果は認められなかった.ステップ4では,GSESを媒介因子として調整した場合のADOCからSDSへの有意な直接効果を認めた(β = -2.5, 95%CI[-4.2, -0.86], p = 0.004).
【考察】本研究では,回復期病棟のPSDの症状のある対象者の意味のある作業の満足度の増加が,自己効力感の変化を媒介せず,抑うつ症状の軽減に寄与する可能性が示唆された.在宅高齢者の意味のある作業の満足度が抑うつ症状を減少させる(Maruta 2020)ことや,脳卒中後の意味のある作業への参加が情緒的幸福感を高める(Egan 2014)といった関連が報告されている.したがって,回復期病棟入院中のリハビリテーションにおいて,意味のある作業に焦点を当てて満足度を高めることはPSDを軽減させる要素となる可能性がある.
本研究は2020年度新潟医療福祉大学 研究奨励金 奨励研究費B(R02C13)によって行われた.
【目的】回復期病棟におけるPSD患者を対象に,意味のある作業の満足度の変化が自己効力感の変化を媒介してPSDを軽減させる関係にあるかを検証すること.
【方法】本研究は,入院時と退院時のデータの反復測定を伴う後ろ向き観察研究デザインとし,同意方法はオプトアウト方式で実施した(所属機関の倫理審査委員会の承認済み).対象者は2019年11月から2021年11月に当院回復期病棟に入退院し,説明理解や表出が可能な患者とした.目的変数の抑うつ症状はSelf-rating Depression Scale: SDSで測定し,入院時のSDSスコア40点以上の者をPSD患者と定義した.説明変数である意味のある作業の満足度はAid for Decision-making inOccupation Choice: ADOCで測定し,挙がった作業の満足度の平均値を算出した.自己効力感はGeneral Self-Efficacy Scale: GSESで測定した.また,共変量として麻痺の重症度をBrunnstromRecovery Stage: BRS,ADL能力をFunctional Independence Measure: FIM,認知機能をMiniMental State Examination: MMSEで測定した.SDS,ADOC,GSESおよび共変量の入退院時間の変化量を算出し,全変数間の相関分析を行った上で,媒介分析を行った.媒介分析は,ステップ1ではADOCとSDSとの直接的な関連,ステップ2ではADOCとGSESとの直接的な関連,ステップ3ではGSESとSDSとの直接的な関連,ステップ4ではステップ1の重回帰モデルにGSESを投入し,GSESがADOCとSDSの媒介因子として媒介しているかを検討した.いずれの重回帰モデルも共変量調整を行った.
【結果】集積された286名のうち,入院時にPSDを有する対象者は72名(61.0%)であった.ピアソンの相関分析では,SDSとADOCに弱い負の相関(r = -0.367, p = 0.002),ADOCとFIMの認知項目に弱い正の相関(r = 0.289, p = 0.017),GSESとFIMの運動項目に弱い正の相関を認めた(r =0.239, p = 0.049).媒介分析では,ステップ1でのADOCからSDSへの有意な直接効果を認めた(β = -2.8, 95%CI[-4.4, -1.1], p = 0.002).ステップ2でのADOCからGSES(β = 0.52, 95CI[-0.18, 1.2], p = 0.145),ステップ3でのGSESからSDS (β = -0.59, 95CI[-1.2, 0.03],p = 0.063)に対する有意な直接効果は認められなかった.ステップ4では,GSESを媒介因子として調整した場合のADOCからSDSへの有意な直接効果を認めた(β = -2.5, 95%CI[-4.2, -0.86], p = 0.004).
【考察】本研究では,回復期病棟のPSDの症状のある対象者の意味のある作業の満足度の増加が,自己効力感の変化を媒介せず,抑うつ症状の軽減に寄与する可能性が示唆された.在宅高齢者の意味のある作業の満足度が抑うつ症状を減少させる(Maruta 2020)ことや,脳卒中後の意味のある作業への参加が情緒的幸福感を高める(Egan 2014)といった関連が報告されている.したがって,回復期病棟入院中のリハビリテーションにおいて,意味のある作業に焦点を当てて満足度を高めることはPSDを軽減させる要素となる可能性がある.
本研究は2020年度新潟医療福祉大学 研究奨励金 奨励研究費B(R02C13)によって行われた.