第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-2-2] ポスター:脳血管疾患等 2普通の箸の操作獲得を目指した自助具の有用性の検討

平川 裕一1上谷 英史1金谷 圭子2柏崎 勉 3赤平 一樹2 (1弘前大学大学院保健学研究科,2弘前脳卒中・リハビリテーションセンター,3弘前医療福祉大学保健学部医療技術学科作業療法学専攻)

【はじめに】
 作業療法士は,脳血管疾患などにより利き手での箸操作が困難になった人に対して,非利き手での箸操作練習を行うことがある.この練習の初期においては,機能的な把持フォームで,適切に手指や箸の動きを導くことが必要であるが,箸と手指がずれることにより,機能的な把持フォームでの操作が反復できないことがある.フォームが一定となる自助具が多数市販されているが,普通の箸の操作獲得を目指すためには,これを操作する際の手指の運動が普通の箸を操作する際の手指の運動と相違ないことが望ましい.
 そのため,本研究では,普通の箸の操作獲得を目指す練習に使用できるような,機能的な把持フォームを保持しながら動かすための箸を作成し,その有用性を検討した.
【方法】
 対象者は,左手での箸操作経験がなく,左上肢・手指には箸操作の障害となる構造・機能の障害がない健常者6名(19~22歳,全員右利き)とした.対象者には,本研究の主旨を十分に説明し,協力の同意を得た.
 課題は,対象者が椅子座位にて,木製の丸箸を左手で持ち,物品をつまみ,机上から30cmの台の上にできるだけ速く移動することを3分間行うこととした.使用した箸は,上谷らの報告(2017)を参考に,機能的な把持フォームにするため,手指の接触位置を記した箸(しるし箸),しるし箸の遠位の箸に母指の位置のずれを防ぎながら円運動の回転軸となるような支点を貼付し,また,平川らの報告(2014)を参考に,近位の箸と環指の位置のずれを防ぐため,近位の箸に粘着性伸縮包帯(ELATEX,1mm厚,ALCARE社製)で滑り止めを貼付した箸(滑り止め箸)の2種類とした.いずれの箸においても,把持時,開閉時に目的を果たしていることを確認した.使用した物品は,直径30mmの球体であり,重さを10gと50gの2種類(それぞれ10g球体,50g球体)とし,いずれも,表面に粘着性伸縮包帯(ELATEX,1mm厚,ALCARE社)を貼付し,摩擦の大きさを揃えた.課題は, 2種類の箸と2種類の物品とを組合せた計4課題とし,1課題の実施後に,休息を挟み,他の課題を実施することを繰り返した.4課題の実施の順番は,対象者ごとにランダムに設定した.そして,各課題における物品移動の個数をビデオ撮像から算出した.
 統計解析は移動個数を課題間で比較した.これにはWilcoxonの符号付順位検定を用いた.いずれもp<0.05を有意とした.
【結果と考察】
 滑り止め箸での10g球体の移動の個数は,しるし箸と比べて,6人全員が多く,その個数(中央値,第1四分位数-第3四分位数)は,滑り止め箸が79(59.5-95)個,しるし箸が53.5(42.75-81.75)個であり,滑り止め箸はしるし箸より有意な好成績を示した.滑り止め箸での50g球体の移動の個数は,しるし箸と比べて,6人中5人が多いものの,その個数は,滑り止め箸が41.5(31-54.5)個,しるし箸が31(11.75-45.25)個であり,有意な差が認められなかった.
 しるし箸,滑り止め箸ともに,10g球体の移動の個数は50g球体の移動の個数より有意な好成績を示した.このことより,10g球体の移動は,50g球体の移動より難易度が低いことが推察された.
 以上のことより,滑り止め箸は,左手での箸操作経験がない者にでも,難易度が低い軽量の物品において,おおむね適切な把持や動きをもたらすことが推察された.そのため,本研究における滑り止め箸の使用は,普通の箸の操作獲得を目指す練習の段階付けの一部になりうることが示唆された.