第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

2022年9月16日(金) 13:00 〜 14:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-2-4] ポスター:脳血管疾患等 2胎児性水俣病患者の嚥下障害に対する神経筋電気刺激による介入を行った一例

中村 篤1中村 政明1林 健一2中川 薫2馬場 敦子3 (1環境省国立水俣病総合研究センター臨床部リハビリテーション室,2国保水俣市立総合医療センターリハビリテーション技術科,3国保水俣市立総合医療センターリハビリテーション科)

【はじめに】水俣病は,メチル水銀による中枢神経系を中心とする神経系が障害を受ける中毒性疾患であり,運動麻痺,感覚障害,構音障害,嚥下障害などを呈する.さらに,加齢要因が加わることで,一層の運動能力や嚥下機能の低下,ひいてはQOL低下を示している.
 摂食嚥下障害に対する治療として神経筋電気刺激による報告は散見されるが,脳卒中患者を対象としたものが多く,水俣病患者を対象とした報告はない.また,刺激部位,介入期間,刺激時の被験者へのタスクも様々である.今回,高齢の水俣病患者一例に対し,神経筋電気刺激を用いた治療を実施し,介入期間等について検討を行ったので,ここに報告する.
【症例紹介】60代,男性,胎児性水俣病.協調運動障害,四肢痙縮,全身性の軽度ジストニア,構音障害,嚥下障害など,脳性麻痺様の症状が認められる.当センターには週2回来所しており,その他の曜日は共同作業所で日中を過ごしている.日中は車椅子を利用し,FIMは48点で日常生活にはおおむね介助を必要とし,食事は2点で全粥食である.以前から外食が楽しみの一つであったが,嚥下機能の低下から誤嚥を引き起こすリスクが高く,最近では外食が難しい状況となっている.訓練開始前の評価では,MASA日本語版75点,反復唾液飲み込みテスト(RSST : repetitive saliva swallowing test)1回,改訂水飲みテスト(MWST : modified water swallowing test)3aで,重症度は重度の判定.また,VF検査では移送障害や咽頭蓋谷への食物残留も認め,嚥下機能障害が著明であった.
【方法】神経筋電気刺激には,NEUROTREAT(エクセレントパートナー株式会社)を使用し,30分/1回,週2回,8週間実施した.嚥下機能の評価は,嚥下造影検査(VF : videofluoroscopic examination of swallowing),嚥下内視鏡検査(VE : videoendoscopic evaluation of swallowing),MASA日本語版,標準ディサースリア検査,RSST,MWSTを実施し,訓練前後の嚥下機能を比較した.本研究は,国立水俣病総合研究センター倫理審査委員会による承認(臨床倫理/21/003)および対象者からインフォームドコンセントを得て実施した.
【結果】.症例は,8週間の訓練期間についてすべて実施したが,いずれの評価においても訓練前後において改善は認められなかった.VFおよびVE検査については,その他の評価で改善を認められなかったため,侵襲性を考慮し,訓練後は実施しなかった.
【考察】今回,高齢の水俣病患者1例に対し,神経筋電気刺激を用いた治療を実施した.実施頻度について,症例の日々のスケジュールを考慮し,1週間当たりの頻度は少なく,一方で実施期間を長めに設定して行ったが,改善には至らなかった.脳血管障害を対象とした先行研究では週5日,4週間という頻度で実施されているケースが多く,実施期間よりも実施頻度が改善につながる可能性が推察された.しかし,多くの先行研究は脳血管疾患を対象としているため,メチル水銀中毒による神経障害である水俣病においては,先行研究と同じ頻度が効果的であるとは言い難い.そのため,実施頻度などさらに検討を重ねつつ,水俣病患者に対する嚥下治療確立に向けて実践例の集積が急務であると考えられた.