第56回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

2022年9月16日(金) 14:00 〜 15:00 ポスター会場 (イベントホール)

[PA-3-10] ポスター:脳血管疾患等 3「クライエントと作業療法士の協業関係尺度(CRS)」をモニタリングツールとして使用したクライエント中心の実践の一例

後藤 紀史1 (1ソフィアメディ株式会社ソフィア訪問看護ステーション岐阜)

【序論】
クライエント(CL)中心の実践は作業療法の中核概念の1つで,CLが作業療法のプロセスにおいて意思決定に積極的に参加することが望まれている.しかし,CL中心の実践には参加を促進するOT側のコミュニケーションスキルや態度が重要とされる.実際,OT側はCL中心の実践を上手くできていると認識しつつも,意思決定への参加や目標設定,共有に関してCLとの認識の乖離も報告されている.今回,協業関係の状態のモニタリングツールとしてクライエントと作業療法士の協業関係尺度(Collaborative relationship scale between clients and occupational therapists , 以下, CRS)を使用することで,CLの意思決定への参加の促進,共通目標の達成に繋がった事例を通してCRSの臨床応用の一例を示すことを目的とする.
【事例紹介】
病前,派遣会社で営業職をしながら独居生活を営んでいた50歳代男性.左視床出血を発症し入院,発症20日目に回復期リハビリテーション病院へ転院した.転院時,認知機能は高いも中等度の運動麻痺があり車いす生活で軽介助を要していた.CRSの得点は28点,ランク1「協業関係が不良な群」であり,「今はまだ今後の見通しも立たない」「専門の先生にやり方は任せるのが一番だと思う」との発言が聞かれた.尚,事例には書面にて同意を得ている.
【方法】
CRSを併用した作業遂行と結びつきのカナダモデル(CMOP-E)に基づく実践を3ヶ月間行った.最初にCRSの説明文に記載された理想とする協業関係について事例と共有した.1ヶ月毎にCRSにて協業関係の状態について確認しながらCOPMで目標設定し進めた.介入の中では,作業の可能化のための10の技能を参考にOTの態度を使い分けて関わった.加えて,QOL:日本語版WHO-5-J,ストレス対処能力:3項目版SOC尺度,作業遂行の質:AMPS,自立度:FIMによる効果測定も1ヶ月毎に行った.
【結果】
結果の変化は(初回/I期後/Ⅱ期後/Ⅲ期後)の様に示す.CRSの得点は(28/36/42/40)点,ランクは(1/3/3/3)と「協業関係が良好な群」へ向上し,各期で目標設定した作業のCOPMの得点も改善した.「リハビリでは自分の要望や疑問に思うことを伝えることができたと思う」との発言も聞かれた.その他の評価指標も,WHO-5-Jは(12/15/15/17)点,3項目版SOC尺度は(14/15/15/17)点,AMPSの運動技能は(-0.4/1.3/1.4/1.6)ロジット,プロセス技能は(0.7/1.0/1.1/1.1)ロジット,FIMは(69/117/119/122)点と改善を認め,転院から3ヶ月後自宅退院した.
【考察】
作業療法実践の中でCRSをモニタリングツールとして使用することは,CLとの協業関係を築くことに貢献し,CL中心の実践の促進,作業遂行に関わる各アウトカムの改善の一助となる可能性が示唆された.